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不安
それから僕たちは、ひたすら歩き続けた。
山奥にある村から逃げ出すには、相当な時間がかかる。それに、巫女姿のなずなは歩きにくそうだ。
「少し、休もっか」
「…うん」
なずなは暗い表情で近くの木のそばに腰を下ろした。
僕はなずなを助けたかった。
なずなの未来を犠牲にしたくなかった。
でも、なずなにこんな顔をさせたかった訳じゃない。
村にいた頃は僕のやり方が一番正しいと思っていた。でも今はもう分からなかった。
「…ごめんね、急に連れ出して」
ふと零れた謝罪の言葉。僕は連れ出したことについて、今までなずなに謝ろうとしていなかった。
それは多分僕が正しいと思っていたから。
僕がなずなを救えると思っていたから。
なずなも逃げたいだろうと思っていたから。
でも、それは全部僕のエゴだったのかもしれない。
「……」
なずなは木に寄りかかって俯いたまま、何も言わなかった。
代わりに聞こえたのは静かな寝息。
「寝てる、のか」
なずなの気持ちを知りたかった。でも知るのが怖いのも事実で。
僕はなずなを無理やり連れてきたようなものだったから、本当は嫌だったかも知れない。
「…ねぇなずな、なずなはどうしたい?」
このまま一緒に逃げてくれるのか、それとも村に帰りたいのか。
もう自分の気持ちも分からなかった。
誰か教えて。僕の気持ちを、なずなの気持ちを。
とにかく誰でもいいから、僕の話を聞いて、相談に乗ってくれる人が欲しかった。
「……馬鹿みたい、」
僕はやっぱり変われてなんかいなかった。
なずなの手を引いて歩いて、僕が守ると意気込んでいたけど、それもただ僕が突っ走っていただけ。
僕でもなずなのことを救えると、思い込んでいただけ。
そんなに簡単に人は変われるはずがない。
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