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第10話(終)
寝室の濃厚な空気が、急速に穏やかなものに戻っていく。息を弾ませた和紀が明日美の上に身体を預ける。最中とは違ってやけに重く感じるけれど、嬉しい重みだった。
「明日美……最高だった。可愛かったし、すげぇ気持ちよかった」
「ん……私も」
「なぁ……今夜と明日、泊まっていけるよな? 今日金曜だし」
明日美のくちびるにちゅ、ちゅ、と何度もキスを落としながら、和紀が甘えた口調で問う。
会社では見たこともない可愛らしい態度に、明日美の心はきゅんきゅんときめいてしまう。
「いいの?」
「あたりまえだろ、俺たちつきあってるんだから。しかも初めての週末だし」
「じゃあ……うん、泊まる」
「よかった……じゃあ、遠慮なく二年分の想いを遂げさせてもらうわ」
「……はい?」
和紀の台詞が理解できなくて、明日美は首を傾げた。彼は彼女に頬ずりをしながら、次の句を継ぐ。
「この一回で俺が満足すると思うか? やっと明日美とこうなれたんだぞ。足りないに決まってるだろ? 一緒に風呂に入って二回目しような」
つやつやした表情と甘い声でそう言い放つと、和紀は明日美の中からそっと抜け出した。
「和紀……それは――」
さすがにちょっと恥ずかしすぎるから……と、遠慮しようと思っていたのに。
「明日美が寝ている間に風呂沸かしておいたから、すぐにでも入れる。入浴剤もいろいろあるから、明日美が好きなやつ選ぼうな。……歩けないなら、抱っこするけど?」
いつになく浮かれたように言葉を弾ませ、そして幸せそうに目を細める和紀を見ていたら、拒否なんてできるはずもなく。
明日美の心も温かくなり、幸せで満ちてきた。
(……よし)
こうなったら、この週末はとことん彼を甘やかして、自分も甘やかしてもらおうと、そう決めた。
「ん。……和紀、抱っこ」
明日美ははにかんだ笑顔で、両手を和紀に差し出したのだった。
<終>
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