第9話

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第9話

「や……っ、だめ……っ」 「……挿入(いれ)てほしい?」  今度は焦らすようにゆるゆると秘裂全体を擦られ、もどかしくてたまらない。和紀は甘く目を細めて聞いてくる。 「っ、も……は、やく……っ、お、ねがい……」  これ以上は待てないと言わんばかりに、明日美は腰を揺らす。早く膣内を満たしてほしい、彼の熱杭で最奥まで突き貫いてほしいと願わずにいられないなんて、人生で初めてのことだ。  浅ましいと分かっていても、もう我慢できなかった。  和紀は天を仰ぐ仕草を見せた後、はぁ、と息をついた。 「ったく、明日美はおねだり上手だな。……でも、すげぇ可愛い」  明日美の懇願する表情を見つめながら、和紀は雄芯の切っ先を蜜口へとねじ込んだ。そしてゆっくりと隘路を辿るように進んでいく。 「……痛くないか?」 「ん……だいじょう、ぶ」  優しげに問われ、明日美は彼を安心させようと笑顔を見せる。その直後、彼女の下腹部に和紀の腰骨がぴたりと密着した。そのまま和紀は明日美の上に覆い被さり、彼女の肩口に顔を埋めた。 「は……やっと、明日美の中に挿入(はい)れた」  くぐもってはいたが確実に耳に届いた和紀のひとりごと――明日美が首を傾けて彼の方へ振り向けば、彼もまたこちらを向いた。間近で見た彼の表情は、それはそれは幸せそうにほころんでいて。 「もう……大げさなんだから」 「大げさなんかじゃねぇよ。二年越しの悲願だぞ」 「悲願、って……」  さっきは『念願』だと言っていたのに、今度は『悲願』だなんて、そんなに必死なのかしらと尋ねたくなる。 「それだけ、明日美のことが好きなんだよ。……愛してる」 「っ」  唐突に、真正面から真剣な眼差しで告げられ、明日美の身体が大きく震えた。彼からの愛の告白に、感動で涙があふれそうになる。何か返さなければと気持ちは逸るけれど、言葉が出てこない。 (私も、伝えなきゃ……)  内心焦っていると、和紀が苦笑しながら彼女の頬を突いてきた。 「こら、ただでさえ狭くてきついのに、そんなに締めつけたらイクだろ? ……少し緩めろよ」  無意識に体内の屹立を引き絞っていたらしく、彼は腰を揺らして知らせてきた。 「そ、んなの、無理……っ」  何もしていない体勢で自ら締めるならともかく、無意識に締めてしまった状態を自分で緩めるなんて、そんなテクニックも余裕もあいにく持ち合わせていない。  思わず自分の顔を両手で隠そうとすると、和紀に阻止された。見えた彼の顔は眉根を寄せて笑っている。 「……すぐイッちゃっても知らないからな」  そう残し、彼はゆっくりと律動を開始した。 「あ……、ん……っ」  内部を幾度か往復し、和紀自身が馴染んだ頃、彼は一旦動きを止めた。 「大丈夫そうか? 続けても」 「平気……っ、平気だから、もっと……」  さっきのように裸の胸同士が擦れ合い、そこから生まれた愉悦が下腹部にまで伝染してたまらなくて。明日美はもっともっとと潤んだ瞳で和紀に訴える。 「あはは、また可愛くおねだりされちゃったな」  彼は腰の動きを再開し、ぐい、と奥深くまで雄芯を差し入れた。 「あぁんっ」  いきなりの深い挿入に、明日美は高い声を上げる。和紀はそのまま抽送を繰り返しながら、彼女の首筋にくちびるを這わせた。食むようなキスを落としたり、時には淫蕩に舐め上げたりして、あの手この手で明日美から快感を引き出してくる。  一定の節奏を保ちつつも、和紀は深く浅く、強く優しく、明日美を穿つ。 「あんっ、あっ、あ、あ、ん……っ、ゃ、か、ずきぃ……っ」 「ん……?」  揺さぶられて快楽に喘ぐ中、明日美は和紀の背中に手を回して抱きしめる。そして、大きく息を吸い―― 「あっ、あい、してる……っ、んっ」 (やっと、伝えられた……)  ようやく先ほどの返事をすることができた。明日美だって和紀に負けないくらい彼のことが好きで好きでたまらないのだ。 「ん……俺も」  とろけそうな表情で和紀は頷き、彼女にくちづけた。絡み合う熱い舌が、明日美のことを好きだと伝えてくれている気がして、彼女の身体はますます昂ぶって濡れていく。 「あ……っ、ふぅ……っ」  キスを終えると、和紀は身体を起こし、本格的に明日美を穿ち始めた。 「んっ、んっ……あぁっ、やぁ……っ」  確実に媚肉を捉えた律動が、明日美に強い快感をもたらす。彼女はたまらずいやいやとかぶりを振った。すすり泣くような喘ぎ声を漏らし、目尻からは涙が筋を作って落ちていく。  明日美の胸のふくらみが律動に合わせてふるふるとみだらに揺れている。 「……可愛い、明日美。……ほんと、こんな姿……他の男に見せるとか無理、だから」  わずかに息を乱した和紀が、切なげに目を細めて囁いた。 「あんっ、ゃ……み、せないから、ぁ……っ」  彼を見つめ返す明日美の瞳には、情欲が溶けて色香を放っている。それに二人の息遣いや蜜音、肌と肌がぶつかり合う音が混じり合い、室内の空気を官能の色に染め上げた頃、明日美の甘い悲鳴がますます高くなった。 「あぁっん、あぁっ、だ、め……っ、も……へんに、な、ちゃ……っ」 「……遠慮せずに……イケよ。……一緒にイこう」  和紀の声音には余裕がなくなっている。彼ももう最後が近いのだと、 翻弄されている明日美にも感じ取れた。抽送は激しくなり、彼のセミダブルのベッドがギシギシと強く軋む音すらどこかいやらしくて、絶頂の後押しをしてくる。  次に和紀が明日美の蜜部を突いた瞬間―― 「ーーーーーーっ」  隘路が大きくうねり収縮した。その波は最後のひとしずくまで快感を吸い尽くそうと、和紀の雄芯を引き絞る。 「っ、……っ」  数呼吸の後、唸る声が聞こえたかと思うと、和紀は明日美の下腹部に腰を押しつけて律動を終えた。
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