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「きみはあと七日後に死ぬぞ」
いつの間にか病室の中にいた男の人は、自分を死神だと名乗り、そのまま普通すぎるぐらい普通のトーンでそう言った。
自称、死神さんをよく見ると、私が想像していた死神像と大きくかけ離れていた。まず、服装が違う。同じ黒だけれど、ローブではなく、スーツだった。それから、左肩には大きなショルダーバッグ、右手には百科辞書のように分厚い黒表紙の本を持っていた。本にはピンクや黄色といった付箋がいくつか立っている。
あと、死神さんはとても若く見えた。私よりは年上なのは確実だけど、それでも、大学生ぐらいに見えた。
ベッドに上半身を起こしたままの私は、瞬きを何度か繰り返す。自分が死ぬ、と言う言葉を飲み込んで、咀嚼して、そして……。
「そっか…………」
諦めたとも、悲しいとも言えない言葉を漏らし、背中にもたれかかった。
私はどうやらあと七日で死ぬらしい。
それが、嘘なのか、本当なのか。そんなことを考える気力もなかった。だだ、それが本当だとしても。今現在進行形で、生きる理由がこれっぽっちもない私にとってその七日間は長いように思えた。
「その期間、短くならないの?」
なんとなくそう聞けば、その言葉に死神さんは目を見開き、驚いたような表情を浮かべた。
「なんだ、きみ。死にたがりか?だけど、残念だったな。この期間は長くなることはあれども短くなることはない」
「そっか」
私の返事に、死神さんはそれから、と続けた。
「僕は良いけど、そう言う早死にしたいとかあまり死神に向かって言うものじゃ無いぞ」
「うん?…………うん」
死神さんは分かってないなぁ、とぼやきながら肩をすくめた。
どうして言っちゃダメなんだろう。
そもそも、私が彼以外の死神に会うことってあるのだろうか?
「早死にすることはできないけど、代わりになんでもひとつ、きみのお願いを聞いてあげよう」
うーん、と首をひねってしまう。
なんでも一つ。それは、とても心が躍るような響きだけれども、今の私には何一つ響かなかった。
ああ、そうだ。
私はふと思いついたことを告げた。
「私が死ぬまで傍にいてください」
彼は真面目な顔をして言う。
「それは、お願いにならないなぁ」
「どうして?」
「きみが死ぬまで僕が監視するからだよ。まぁ、わかりやすく言えばきみが死ぬまでそばに居る」
監視か、なぜ、監視するんだろう。
監視なんかしなくてもすぐに連れて行ってくれたらいいのに。
「まぁ、きみが死ぬまでまだ時間はある。その間に決めてくれればいいさ」
私が瞬きをした一瞬のうちに、死神さんは姿を消していた。
死神さんがいなくなると、部屋の中はまた静かになった。
こんこん、と扉をたたく音に「はーい?」と返事をする。中に入ってきたのは、顔見知りの看護師さんだ。
「あれ?誰かとお話ししていなかった?声が聞こえた気がしたんだけど」
「うーうん」
戸惑うお姉さんに、私は首を左右に振った。
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