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引っ越してきたお隣さん
最初から、変わってるな……とは思った。
高三の五月という中途半端な時期に、俺ん家の隣に引っ越してきた百谷一家。
挨拶に来たのは三人の男。顔がまったく似ていない兄弟だった。
特にイキって尖ったことはしない黒髪短髪で平凡顔で中肉中背という、人ごみに紛れてしまえば一瞬で溶け込んで存在感ゼロになる俺。そんな俺と対極にいるような華やかな外観が三人も並んで、強烈なオーラに内心たじろいでしまった。
狭い玄関が暑っ苦しいことになってるなあ……と思いながら見ていたが、母ちゃんいわく目の保養になったらしい。
俺が通う高校の数学教諭として赴任した、百谷芦太郎。
艶やかな黒髪のオールバック。端正な顔立ちに「よろしくお願いします」と良い声をばら撒きながら大人の微笑み。熟女キラーね、と声を弾ませる母ちゃんに同意はできないが、まあカッコいいとは思う。
同じく産休に入る養護教諭の代理で来たという、百谷宗三郎。
眼鏡をかけたにこやかな兄ちゃんで、焦げ茶のウネウネ髪。保健室の先生よりも、ホストのほうが似合いそうねーという母ちゃんの意見には、心の中で激しく同意した。
そして俺と同級生になる、百谷圭次郎。
母ちゃん的にはコイツが一番美形でカッコいいらしいが――鋭い目つきに終始不満そうに顔をしかめた、長い茶髪を後ろで束ねた不良少年。それが俺の第一印象だった。どうも家の中でも手を焼いているらしく、兄二人に促されても軽い会釈も挨拶もしなかった。
数学教諭に養護教諭。二人とも先生だ。
でも礼を欠く弟に、百谷先生たちは困った顔をするばかりで強く咎めなかった。
どこか遠慮しているような空気すら覚えた、違和感だらけの三兄弟。
訳ありなのか……? まあ今どきそんな家庭も珍しくないもんな。
三人が帰った後、俺はそう考えてすぐに興味を失った。
ただの顔が良いお隣さん。
別に仲良くする必要もないし、そもそもあっちが仲良くしたいと思ってなさそう――主に圭次郎が――だから、自分から近づくまいと思っていた。
そう。アレを目撃するまでは――。
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