そのバケモノは、僕の唯一の友達だった

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次の日。 僕はいつものようにあの洞窟に向かっていたが、洞窟の前には既にたくさんの人がいた。 ―嫌な予感が、する。 僕は「何してるの!?」と叫びながら、急いで洞窟の前に立って手を広げた。 村の人は、驚いたように僕を見ていた。しばらくして、村長が僕に近づいて言った。 「君、そこをどきなさい。その洞窟には『バケモノ』が住んでいるんだ。君も聞いた事あるだろう?」 「知ってるよ! でもどかない! どきたくない! この子を殺すつもりだろ!」 「村の平和の為だよ。その『バケモノ』を放っておくと、とっても危ないんだ。君もその『バケモノ』に『食べられてしまう』かもしれないんだぞ?」 「そんな事ないもん! この洞窟の奥にいる子はそんな子じゃないもん! だって……、だって、あの子は僕のたった一匹の『友達』なんだもん!!」 僕がそう言った途端、村の人達は目を丸くしてざわついた。 その隙に、僕は洞窟の奥に行く。彼に会うために。奥へ。奥へ。 「君!!」 僕がそう叫ぶと、名前も知らないその『トモダチ』はゆっくり目を開いた。 『……分かっておる』 「……え?」 『トモダチ』のその一言に、僕は驚いたようにそう返した。 『……分かっておるよ、少年。【人間】どもが我を【退治】しに来たのだろう? お主が必死で止めようとしておった声も、全部聞こえておった』 「本当に? ……じゃあ、じゃあ一緒に逃げようよ! 早く逃げないと本当に殺されちゃうよ!」 『……それで良いのか、少年?』 「君が、殺されちゃうよりはマシだよ。僕、学校に友達なんていないし、僕がいなくなったって誰も困らないし」 『お主の家族は?』 「……実はこの間、僕が君と会ってるって知られちゃってさ。僕、捨てられちゃったんだ。……最低だね、『人間』って」 僕がそう言って、更に『トモダチ』に近づこうとした、その時だった。 「……!?」 背中に、何かが刺さった感触がした。 痛い。痛い、痛い。息が、出来ない。痛い。 何が起こったかもわからないまま、僕はその場に倒れ込んだ。 続いて、僕の『トモダチ』の苦しそうな声が聞こえてくる。彼も、何かに刺されたのかな。 「……れで、『バケモノ』は……を……」 「少年も……『バケモノ』の手下……して……」 微かに聞こえてくる、村の人達の声。 ああ、僕が思っていたより、『人間』というのはここまで汚れてしまっていたのか。 ああ。許せない。許せるはずがない。こんな、事が。 『……赦さぬ。……我は、貴様等を決して、赦しはせぬぞ』 悲しげな、だが怒りに震えた『トモダチ』の声が聞こえてきた。 だが、それを最期に、僕の意識はそこで、途絶えた。
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