そのバケモノは、僕の唯一の友達だった

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―僕の村には、昔からの言い伝えがあった。 僕が通っている小学校の近くにある、少し大きな山。その山の奥の方にある洞窟にはとある『バケモノ』が住んでいるから決して近づいてはいけない。近づいたら、その『バケモノ』に『喰われてしまう』―という言い伝え。 その言い伝え自体を僕は昔から聞かされていた。その山奥にある洞窟の場所も知っていた。 だけど、僕はその洞窟に毎日のように通っていた。 何故なら、皆が言っているその『バケモノ』は、僕の唯一の友達だったからだ。 クラスの誰とも話すことが出来ず、学校ではお友達がいなかった僕は、ある日クラスのガキ大将にそそのかされて、その洞窟に近づいた。 その時、僕は初めてその『バケモノ』と出逢った。 正直暗くてよく見えなかったけれど、その洞窟の奥の方で目のような黄色い2つの光が動いているのだけは分かった。 正直初めて見た時は怖かった。怖かったけど、暫くして声が聞こえてきた。 『……少年。お主何故(なにゆえ)こんな場所に来た? 迷子か?』 「えっ……?」 僕が驚いたようにそう言うと、その『バケモノ』は続けてこう言った。 『なに、驚く事はない。我はお主をとって食うような事はせぬ。……して、何故(なにゆえ)此処に来たのだ?』 ……もしかして、皆が言うような悪い『バケモノ』ではないのかな? 僕はその時ちょっとホッとしたように、その『バケモノ』に事情を話した。 それ以来、僕は毎日のようにその洞窟に行き、『バケモノ』にその日あった事を話した。 授業中に居眠りしてしまって先生に怒られた事。ずっとできなかった逆上がりが出来るようになった事。テストで100点取れた事。……本当に色んな事を話した。 そんなある日、僕はずっと気になってた事を『バケモノ』に聞いた。 「ねえ。村の皆は君の事をとっても怖い『バケモノ』みたいに言ってるけど、本当にそうなの?」 『バケモノ』は一つため息をついてから答えた。 『……そんなのは単なる【言い伝え】じゃ。我は【人間を喰らう】などというおぞましい事はせぬ。じゃが、【人間】という生き物は昔から、見た事もない者を【バケモノ】と呼び、恐れ、近寄らぬ。―暫くして、その【バケモノ】に対抗できる者が現れると、【人間】はそいつに頼り、【バケモノ】を【殺してしまう】。……嘆かわしい事じゃがのぉ』 『バケモノ』の話を聞いて、僕は驚いた。そして僕は聞いた。 「……君は? 君もいつか、『殺されてしまう』の?」 ……『バケモノ』は、何も答えなかった。 僕に気を遣って『答えなかった』のか、それともなんでも知っている『バケモノ』でも『答えられなかった』のか。 僕は、ただ一言「……ごめん」としか言えなかった。
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