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桜の下には鬼が住むという
そんな言葉を幼い頃祖母から聞いたことがある
では 今僕の目の前にいるのは
紛れもなく〝 鬼 〟と言われるものだと思う
満開の桜の木の下
青白く光る満月の光を浴びて佇む〝 鬼 〟
あの世とこの世の狭間から紛れ込んできたかのようなその姿に僕は魅入られていた
祖母から話を聞いてからは闇夜に浮かぶように咲く桜の花が怖いと思うようになっていた
けれどそれは 昼間とはあまりに違う
〝 妖艶 〟
ともいえる桜の姿に幼いながらに惹かれていたからなのだと思う
魅入られそうになる心が〝 怖い 〟と思い込んでいたのだろう
そんなことを思い出しながら
どれくらいの時間が経ったのだろう
じっと月を見上げていた〝 もの 〟がそっと僕に振り返った
「 あなたも誘われたの?
こんな朧に光る満月の日に1人でいるといらぬものに魅入られるよ 」
そのものはそう言いながらゆっくりと近づいてきた
すれ違いざまに吹いた悪戯な風に
そのものの長い髪がふわりと広がった
甘い香りにあたりが包まれる
時刻は丑三つ時と言われる刻
〝 桜鬼 〟
後にはただ
桜の花びらが舞い散るばかり
…魅入られたものはどうなるのだろう
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