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──鉄の臭いがする。止めどなく流れては、生の臭いを掻き消すように充満していく。
そのばけものはわらっていた。極上の喜劇を観たように口許は緩みきって、虚ろになった眼に映る。
「……」
私は無言のままだ。恐ろしくて口を聞けなくなったようだ。ただこの怖い、恐いばけものを俯瞰していた。
何が面白いのだろう。そのけたけた笑いの理由がわからない。目の前に広がるのは、凄惨な光景だというのに。
足にまで鉄の臭いが届く。周囲の騒騒とした音は耳には届かず、暗転したような真っ暗闇で、ばけものがわらっている。
──本当に、おぞましい。そんな感情が、霞のように消えていく。こんなかいぶつを生み出した存在を呪ってしまう程に。
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