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「う、うん。良かったね姫華。楽しそうじゃん」
私はひきつり笑いでそれに答える。いいねと一緒に、リツイートもどんどん増えている様子だった。それもそうだろう、彼女は某遊園地で“立ち入り禁止”と書いてある札を潜り、装飾された電柱にブラ下がったところを友人に写真を撮ってもらってアップしたのだから。
つまり、実際のところ“いいね!”と思われているというより、炎上しているのである。これは見つかったら普通に遊園地側から怒られるだろ、と思わなくもない。以前アップした、商品のぬいぐるみにチューして棚に戻す動画よりはマシ、なのかもしれないが。
本当はこういうのでいいねを稼ぐなんて馬鹿らしい、警察沙汰になってからでは遅いよと注意したい。けれど、彼女の無駄な拡散力や影響力を考えると、下手な事を言う勇気が出ない。
実はそれで、うちの高校の教師が一人やめているのだ。彼女に“あのキモオヤジうざい。注意してくんなハゲ”と不興を買い、セクハラ認定されてネットで晒されたせいで。――本当に、これが罪にならないのだとしたらこの国は終わっているとしか言い様がないのだが。それとも、そのうち彼女も本当に逮捕される時が来るのだろうか。十六歳は、一応は逮捕可能な年齢であるのだから。
「ふふふ、ねえねえ見て見て?麻美も写真撮るの上手いよねー!結構可愛く撮影できてるから、これほんとお気に入りの一枚なの。ちょっとパンツ見えそうだけど、それがセクシーっぽくていくない?」
愛想笑いに全く気づかない様子の彼女は、ルンルンでスマホをいじっている。その悪趣味な撮影に巻き込まれた友人には、同情を禁じ得ない。
「明後日行くところも決めてるんだよね。超激アツなツニッター映えする撮影スポット発見しちゃってさー。ネットでマジ有名になってるのよこれが」
「明後日?え、明後日木曜日だけど、またサボるの?」
「木曜日、体育あってマジめんどいし。カニセンもうぜぇし。今回の場所は一人客として行かないとダメらしくて友達誘えないのが残念なんだけどね。金曜日はガッコ来るから、その時見せてあげるよ」
いや、見せなくていいです、とは言えない。一体今度はどこの施設に迷惑をかけに行くつもりなのか。彼女が大きな流行から超マイナーなスポットまで、幅広く遊びに行くことでも知られている。それこそ立ち入り禁止のオカルトスポットや、崩れかけて危ない廃墟まで堂々と踏み入っていくらしい。
その無駄にジャブジャブと溢れた行動力を、どうして他の方面に向けることができないのか。
せめてもの救いは、今回は“巻き込まれて”一緒にサボりに同行させられる哀れな友人がいないという点だろうか。
――これ、本当に一度誰かに相談して止めらせた方がいいのかなあ。でも、先生に言ったら、今度は先生が可哀想なことになりそうだし……正直逮捕されちゃう前になんとかしてあげたい気持ちもなくはないけど、うーん。
ああいうSNSは、本当に親しい人間とちょこちょこお話したり、フォロー先の素敵な絵や写真を楽しく眺めるだけでも十分楽しめるというのに。思えば彼女も、高校に入りたての頃はそんな“ちょっとした刺激”をSNSに求めているだけの、普通の女の子であった気がするのに。一体どこで道を踏み外してしまったのだろうか。
自分も気をつけなければ、と心に誓う私である。ツニッターに限らず、危ない誘惑というものはいつの時代も身近に溢れているものに違いないのだから。
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