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姫華のアカウントが大変なことになっている。
炎上どころか大炎上している。とにかくヤバい写真を載せてる。
私がちょっと怖くなってしまい、ツニッター断ちを思い立ち始めたまさにその瞬間に飛び込んできたニュースだった。彼女が“激アツスポット”に学校をサボって撮影しに行くと言った、まさにその翌日である。私は彼女のアカウントをフォローしていないので、件の写真はまだ見ていない。共通のリアル友達から内容だけ聞いてしまい、“絶対に見たくない”と思ってしまったというのもある。
「あ、美衣おっはよー」
金曜日。学校に行くと既に登校していた彼女の回りには人だかりができていた。そりゃそうなるだろう、と私は青ざめながら思う。なんせ、彼女がアップしたというその写真は。
「姫華、おっはよーじゃないよ!何考えてるの!?」
さすがに、これは止めないわけにもいかない。当たり障りなく、と考えるのも限界だ。私は思わず声を張り上げてしまう。
「よ、よりにもよって……首吊り死体の写真をアップするなんて、ほんとどうかしてる!」
「ふふふ、よくできてるでしょ、コレ。こういうのを撮影させてもらえる特別な場所に行ったわけー」
彼女はにやにやしながら告げた。
「本物そっくりだけど、偽者なの。めっちゃリアルだったからみんな騙されたみたいで、すっごく反応あったけどね。顔が真っ黒になってるところとか、排泄物漏れてるところとか、ぜーんぶリアルに“再現”する写真が撮れちゃうっていう。きっとこれからもっともっと流行するわよーお、“死体のフリ”した写真を撮ってアップするのが!」
「ニセモノにしたって、いくらなんでも趣味悪すぎるでしょ……!?」
「いいじゃん本物撮影するよりずっとマシでしょ?つか、本物撮影したらアカウント凍結されかねないし。ニセモノだから堂々とアップできんの。もう十万いいねついたんだよ、みんなホントはこういうスリリングなのが見たかったんだって」
「姫華……!」
陶酔しきったように、うっとりと画面に見入る姫華。私は実際に写真を見ていないから、どこまでリアルなのかは知らないが。それでも見てしまった友人は今日、ショックを受けて寝込み、学校に来ていない。それほどまでに“本物”と見分けがつかないような首吊り死体の写真だったということだ。そんなものを撮影させる施設というのにも問題がありすぎるが、それを嬉々として撮影してアップする姫華もトチ狂っているとしか思えない。
ニセモノであったとしても。それをホンモノと誤解したり、ホンモノのように受け取って傷つく人が出たなら――もう単なるニセモノだからいい、で片付けていい問題ではなくなるはずである。彼女はついに、人らしい心までどこかに置き忘れてきてしまったのだろうか。
「まあ、この興奮は実際に行って、撮影した人にしかわかんないのかな」
私の批判も、周囲の非難するような視線も。彼女には都合の良い方向にしか変換されていないようだ。すくっと立ち上がると、私の方にまっすぐ歩み寄ってくる彼女。
そして、どこか焦点のズレた眼で、私を見つめて微笑んだのである。
「美衣、明日なら土曜日だから、一緒に遊べるでしょ?この面白さ、美衣にも分かって欲しいのよね。二回目からは他の人を連れてきてもいいの。実地で見せてあげるから、付き合ってよ」
迷惑極まりない話だったが、この時の私の心は一つだった。
土曜日、何処の施設で何をするつもりかは知らないが――とにかく彼女がここまでブッ飛んでしまった原因を調べなければいけない。そして、なんとしてでも姫華を真っ当な倫理観の世界に引き戻さなければ。
そう思うくらいの正義感は、私にもあったのだ。まさかそれが、命取りになるとは思わずに。
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