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「……賢太郎、どうした?」
車を発進させない賢太郎に、健は声をかけてくる。健が横にいるのに物思いに耽ってしまったことが情けなかった。今日と明日の丸々二日間、二人でゆっくり過ごせるまたとない機会だというのに。
「悪い、なんでもない。行こうか」
カーナビに目的地を入力し、幹線道路に入ってからは案内通りに進んでいく。一先ずの目的地は、ここから高速道路を使って三十分の距離にある、アウトレットモールとテーマパークが併設された観光施設だ。高速道路は海沿いを貫いているので、車内からでも船舶や海が見える。
「そういえば、お前って絶叫系アトラクションは乗れるのか?」
賢太郎は、何か話題を出したくて健に話しかける。運転中なので健の方を向けないのが非常に心苦しい。
「乗れるに決まってるだろ。じゃなきゃ、今から行くところを候補に出したりしないよ」
それもそうか、と賢太郎は相づちを打った。実は賢太郎は絶叫系が苦手だ。アトラクションなんて乗った日には、胃の中のものを全て吐き出してしまうだろう。
今日寄る施設でも、アウトレットモールでウインドウショッピングする方に気持ちが傾いていた。けれど、そんなことを伝えたら更に気まずい空気になりそうだ。こんな話をするんじゃなかった、と賢太郎は後悔した。
「賢太郎は? アトラクション乗れるのか?」
「……実は苦手なんだよ」
「ええ……早く言ってくれれば良かったのに」
じゃあ今日はショッピングだな、と健は明るい声で付け加える。
賢太郎は、健のそういう優しさが好きだ。賢太郎が出来ないことや苦手なことを無理矢理やらせたり、付き合わせたりしない。それでも一緒にいてくれる。一緒にいる方法を探してくれる。
でも、賢太郎だって同じことを考えている。健に出来ないことがあったとしても、彼と一緒にいたいと願っている。健はそのことに気づいてくれているのだろうか。
高速道路から見える海の輝きを受けながら、健はどんな表情を浮かべているのだろう、と賢太郎は思いを馳せた。
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