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第11話
「は? 何だよ?」
「その顔で『ひぃくんクソカワhshs』とか言われたら笑うしかないわー」
「hshsは言ってねぇだろ」
「でもヘタレオタク美形攻めと、一見平凡実は可愛い受けはオイシイ。椎名頑張れ!」
明日華は隠れ腐女子だ。見た目で完全に周囲を騙してるという点では俺と同じで、さすが血の繋がりを感じさせる。
何せ去年のミスコンに出たのは、優勝商品のアマ○ン商品券につられたからだ。その商品券で山ほどBL本を注文していたのを俺は知っている。明日華の部屋の本棚にはギミックが施されていて、表は一般的な小説と少女漫画が並んでいるが、とある仕掛けをいじってひっくり返すとBL漫画や小説、同人誌がぎっしりぎっちり詰まっている面が現れる。
まぁそのギミックを作ってやったのは俺なんだけど。俺の部屋にも同じものがあるから。もちろん俺の本棚の裏側は【サイバータウンハンター】関連グッズで埋め尽くされている。
そんなわけで、俺たちは恋愛感情など何一つないただの親戚で、ある意味同士だ。
この間なんかこの女は俺が【サイハン】好きなのを知っていて、
「ほらほら椎名~、サイハンのヒカル受け本~。夏コミで買って来てやったぞ~。読みたくなぁい~?」と、ヒカルが友達のアキラにあんなことやこんなことをされているBL同人誌を俺の部屋に置いていった。後でパラパラめくってみたけど、地味にダメージを受けたので次姉の部屋にそっと置いておいた。二番目の姉と明日華は趣味が合う者同士、よく一緒に同人イベントに行っているからだ。
「そのヘタレって俺のことかよ?」
「椎名は立派なヘタレだよぉ。ヘタレ美形攻め好きな私としてはほんと椎名は逸材!」
心底嬉しそうに話す明日華は端から見たらきっと、
「明日華さん、美しい笑顔で美味しいレストランの話でもしてるんだろうか」
と思えるだろう。いつか明日華の化けの皮が剥がれればいいのにと思うが、それは俺にざっくりと戻って来るブーメランになりかねないので、敢えて黙っておく。
「あ、そういえば。この間私の友達がひぃくんのこと優しくていいなぁ、って言ってたよ? 取られないように気をつけなね? 私は椎名のこと応援してるから、友達には悪いけど軽く邪魔をしておくからね! しっかりやるのよ!?」
そう言って俺の手を握る明日華は、完全に猛禽系腐女子の眼をしていた。
っていうか明日華のやつ、聞き捨てならないことを言っていたな。一之瀬を狙っている女がいる?
うわぁあああ、それは嫌だ。一之瀬が他の女とラブラブいちゃいちゃしてる姿なんて見たくない! 一之瀬は誰にも渡さない。ひぃくんは俺のものだ!
とりあえずは友達になって近くで見張るしかないよな。それで近づいてきた女を威嚇してやる、と。
いきなり話しかけて一之瀬に引かれないだろうか。でも言うしかないよな。
よし、明日声をかけることにするわ。そして一之瀬と友達になってみせる……! まずは「友達になってください」だな、うん。
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