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第12話
「一之瀬のことが、好きなんだ」
クッソ……俺は一体何を言っているんだ! 確か予定では友達になってもらうはずだったのに! 一之瀬の可愛さを間近で見てしまったら堪え切れずについ、本音が……! あぁほら、一之瀬が困った表情をしてる……うぅっ、クッソカワ……!
「あ……えっと……ごめん。俺、そういう冗談に慣れてなくて」
苦笑いをする一之瀬も可愛い……じゃなくて! あぁ、困らせたいわけじゃないのに。これ本気にされてないパターンだな。多分俺がからかってると思ってるんだ。
「冗談なんかじゃない……本気だよ。本気で一之瀬が好きなんだ。……あ、っと、ごめん、自己紹介してなかったな。俺、八神椎名って言うんだ。一之瀬とは同じ学科で、いくつか講義もかぶってるんだけど」
俺としたことが、自分の名前すら名乗らないで告白するとかアホか! バカだバカ。俺はクソだな!
でも嬉しいことに、一之瀬は俺のことを知っていてくれた。感動! 幸せ! そしてやっぱり可愛い!
しかも、しかもしかも! なんと! 一之瀬は俺とつきあってもいいと言ってくれた……嬉しすぎて泣きそう。
「よろしくな? 八神」と言ってくれた一之瀬の笑顔、超絶クソカワだった……。
この笑顔が俺のもの……!
俺はこの時、一之瀬を世界一大切にするとヒカルに誓った。
一之瀬との日々は幸せと発見の連続だ。
とにかく可愛い、可愛い、可愛い! クッソ可愛い!
見た目も可愛いのに一挙手一投足までクソカワとか、天使か! 天使だ! ひぃくんイズマイエンジェル!
俺は転びそうになる一之瀬を人前で抱きしめる――もとい、抱きとめるという大義名分を作るためにスケートに誘ってみたのだが、その時の一之瀬の反応ときたら、
「八神に教わったら上手くなれそう」
と、天使のスマイル。思わず他に見ているやつがいないか辺りを見回してしまったじゃねぇか。
「あまり可愛い顔しないで、一之瀬。他のやつが見るから」
と言って、どさくさに紛れてほっぺたを摘んでしまった。あぁもう可愛い……。
既に分かっていると思うが、俺は本来ものすごく言葉遣いが悪い。明日華にも姉にも「あんたそのクソクソ言う口癖やめなさい!」「その言葉遣いは一部女子からはもてはやされるかも知れないけど、一般受けしない!」と指摘されるほどだ。
そんな姉たちの努力により、猫を被っている間は周囲には物腰が柔らかいと言われるようになった。それは正直ハンパなく疲れるんだが、何故か一之瀬の前では自然と穏やかな言葉遣いになる。一之瀬は俺の疲れまで癒やしてしまう。やはり天使だ。
スケートの帰りに一之瀬が、
「なぁ……八神はどうして俺のこと好きになってくれたの? 何かきっかけとかあったのか?」
と聞いてきた。思わずぎくりとしてしまう俺。
これは……正直に答えるべきかマイエンジェルひぃくん。
いや、これは隠しておいた方がいいような気がする。一之瀬は俺の本当の姿を知らないからきっとドン引きするだろう。
そんなわけで、嘘をついたわけではないけどある程度割愛して答えておいた。でも初めてひぃくんスマイルを見た時の感動を思い出してニヤニヤしてしまった。
一之瀬は学食での件を聞いて頬をほんのりと赤く染めていた。あぁ……可愛い。ひぃくん好きだ。
講義が臨時休講になった時、一之瀬が動物園に行きたいと言い出した。あぁ、多分シロクマが見たいんだなぁと思ったら、やっぱりそうだった。
「シロクマって可愛いよなー。俺シロクマ好きなんだー」
満面の笑顔で振り返る一之瀬。普段から可愛いのに、きらきらが三割増しだ。もっと可愛くなってどうするのマジで。
あまりに可愛いので俺の本心がだだ漏れだ。
「一之瀬の方が可愛い」
胸がきゅっと締めつけられる。一之瀬への気持ちが溢れて止まらない。
真横に立ち、そして、
「……一之瀬が好きだ」
今の気持ちを真剣に伝え、一之瀬の手を軽く握る。その感覚にびくりと身体を震わせる一之瀬の頬はうっすらと朱に染まっている。きょろきょろと辺りを見回し、それから俺の手を握り返してくれた。
「……俺も」
そう聞こえた気がして。
「……え?」
確認するために、顔を覗き込んだ。一之瀬は今度は俺の顔をしっかりと見て、
「俺も、八神のこと、好きだ」
今度ははっきりとそう言ってくれた。
幸せすぎて耳鳴りがした。手が震えた。
俺は今まで何人もの女の子とつきあったことがあるけれど、こんな気持ちにはなったことがない。それは全部相手から告白されたという経緯も関係していると思うが、感情がここまで揺さぶられたことなどついぞなかった。
なのに一之瀬に好きだとひとこと言われただけで、こんなにも心が震えて鳴って痺れてしまう。同性なのに、だ。
好きで好きでたまらない。
愛してる。
気持ちが抑えられない俺は、シロクマの前で一之瀬にキスをした。
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