第15話

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第15話

 俺のマンションに陽向を連れ込み、ベッドまで待ちきれず玄関で押し倒していたら、シャワーを浴びさせろなどともったいないことを言い出した。陽向は自分の体臭の価値をまったく分かっていないから困る。さすがに花の香り――とまでは言わないが、その匂いは不快になるどころか、俺を高揚させて止まない。汗ですらすべて舐め尽くしたいくらいだ――って、俺は変態か。いや、陽向に関することでなら変態と呼ばれるのはやぶさかではない。むしろ本望だ。  陽向の要求を拒否をしたら今度は、 「椎名……風呂に入らせてくれたら、フェラしてやる」  などと言い出した! 何なのこの小悪魔。俺をどれだけ翻弄したら気が済むんだ陽向。  仕方がないから交換条件として俺も一緒に風呂に入ると言ったら、渋々了解してくれた。よしよし、風呂場にローションとゴムを持ち込んでなし崩しエッチだいやっほ~!  (主に俺が一方的に)風呂場でいちゃいちゃしていたら、突然陽向が俺に突っ込みたいと言い出したので、思わず固まってしまった。確かに俺は最初は下になってもいいと言った。言ったが……陽向の身体を穿つ気持ちよさを知ってしまった今となっては、下で我慢出来る気がしない……でも陽向が望むなら……そんな風に悶々と考えていたら、いつの間にか自分の身体を洗い終えた陽向が、 「なぁ~んてな、冗談だよ。俺、おまえを抱く気なんてないよ? 身体洗いたいのにおまえがくっついて離れてくれないから、ちょっと脅しただけだよ」  笑いながら俺の顔を覗き込んだ。  うぁああああああ騙されたけど笑顔がクッソ可愛い!  やっぱり陽向は天使! 天使であり小悪魔ってどんな生き物だ陽向!  その後、躊躇いもせずにフェラをしてくれたこと、一生忘れない。咥えてくれただけではなく、俺が出した精液まで飲んでくれた時、嬉しすぎて感動してうっかり涙してしまった。俺いつの間にこんなに涙もろくなったんだ。  陽向が好きすぎて涙腺が馬鹿になってしまうほど苦しい。恋とは快感と苦痛の(はざま)に身を投じるものなのだと初めて知った。  陽向はそんな俺の苦しみを共有したいと言ってくれた。俺の大きすぎる気持ちを全部受け止めてくれると。陽向……可愛いだけじゃなくて男前すぎる。この器の大きさも、俺が好きになったところなんだ。  俺は一生陽向を離さないと、この時思った。  陽向はどんな時も可愛いけど、やっぱセックスの時が一番だな。俺が額を突いたら恥ずかしがって顔を隠したり、俺がシロクマDVDを買っておいたと伝えたら指の隙間からきらきらした瞳を見せたり、ほんとたまんねぇ。  あまりの可愛さに思わず、 「あーたまんねぇ……陽向マジでクッソ可愛すぎる。俺の天使……」  素の俺が出てしまった。  俺を受け入れている時の真っ赤に染まった頬と、快感で緩く解けた表情と、普段話す声よりも高くなる喘ぎ声は……思い出すだけで勃つ、確実に。  胸はぺったんこだし、股には俺と同じものがついてるし、肉づきだっていいわけじゃないのに、どうしてこんなにも俺を欲情させるのか。  滑らかな肌に、よく見ないと存在を認識出来ないくらい色づきの薄い乳首、脇から腰骨に続くなだらかな線、きれいな肌色をした陽向自身、あまり運動をしないらしくほっそりとした脚――全部が愛おしくていやらしい。  全部全部、俺のものだ。  他のやつに見つからなくてよかった。誰かに取られなくてよかった。  俺が見つけた天使だ、陽向は。  やっぱり今回も箍は外れてしまい――やってやってやりまくった末、陽向が目覚めたのは翌日の昼過ぎだった。「もうしばらくセックスはしない」と陽向は少し怒っていたけど、そんな姿さえクソカワだからな。  一緒に住んでほしいと思い合鍵を差し出すと、鍵よりもシロクマのキーホルダーに食いついた。可愛いけど思わずがっくりする。でもシロクマよりも俺の方が大事だと断言してくれた陽向に胸がキュンとしてしまった。陽向が俺を喜ばせる才能に満ち溢れすぎててつらい。  引っ越しする時に陽向の両親に挨拶をしたいと言うと「ははっ、プロポーズかよ」と、ほんの少し眉を下げて陽向が笑う。その愛らしさに胸がどうしようもなく疼く。  こんな疼きを、これからどれだけこの身に刻むことになるのか。楽しみで仕方がない。  もう二度と離さないと告げた時の陽向の赤く染め上げた顔に、早くも胸が疼きまくる――どんな顔を見てもきっとこんな風に俺の中を掻き乱されてしまうのだと分かった時。  一生、陽向にはかなわない――そう思ったんだ。    p.s.  二度目の朝――というか昼、俺を無視して携帯を弄る陽向をさりげなく【ひぃくん】と呼ぶことに成功した俺を褒めてほしい。 【終】
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