第8話

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第8話

「はっ、んんっ……き、もちい……っ」 「は……陽向可愛い……」  ローションを足したのか、椎名が指を動かす度にすげぇ音が鳴る。ぐちょぐちょになってるのが分かる。もう三本入ってるんだろうか。 「はぁ……もう、わけ、わかんない……っ」 「可愛い陽向の中に、俺の、挿入ていい?」 「う、ん……、ん……っ」  頭の中が痺れてもう余計なことなんか考えられなくて。何度も頷いた。  ずるりと指が抜かれて俺の身体はまた跳ね上がった。そんな行為すら快感になるなんて自分の身体が怖いんだけど。  俺は放心状態で椎名が自分のにコンドームを着けているのを見ていた。 「おまたせ、可愛い陽向」  脚を引き寄せらせ我に返ると、椎名がとろっとろの笑顔で俺を見ていて。何だよもう、俺の名前に【可愛い】って形容詞つけるなよ恥ずかしい。  椎名がそうしたいなら好きにさせておくけどさ。 「挿入(いれ)るよ」 「ん……」 「力抜いてて……陽向」  あぁ……この少し掠れた声に弱いんだ。この声にやられてもう、力なんて全然入らなくなってしまう。 「あ……ぁ、あつ、いよ……しぃなぁ」  椎名の熱が俺の中にゆっくりと入って来る。 「陽向、痛くない?」  ふるふるとかぶりを振り、俺は脚を椎名の腰に絡ませた。早く全部入れてほしくて、脚に力を入れる。腹の奥がすごく疼いて熱を持ってる。その熱をすぐにでも解放したくて仕方がない。 「こら、俺にしがみついてくれるのは嬉しいけど、動けないだろ? あとそんなに締めつけて……少しだけ緩められる?」 「~~っ」  椎名が少し困ったような表情をして俺の額を突く。同時に、羞恥心が一気に押し寄せてきた。慌てて脚を緩めて、恥ずかしさで真っ赤になった顔を手で覆い隠す。 「陽向、手どけて。可愛い顔が見えない」  椎名が優しく言うけど、今の俺はとてもじゃないけど無理だ。額を突かれるとか無意識に締めちゃうとかもう、何だよもう信じらんねぇ。恥ずかしすぎて顔を隠したまま首を振った。 「ひーなた。顔見せてくれたら、後でいいものあげる」 「……いいものって何?」  手で覆ったまま聞く。 「この間本屋で見つけたから買っておいたんだ。シロクマ親子のDVD」  思わずパカッと指を開いてその隙間から覗き込んだ。椎名はにこにこにこにこしながら俺を見ている。 「……マジで?」  頷く椎名。 「……椎名一緒に観てくれる?」  また頷く椎名。 「わ……かった……」  おもむろに手をどけると、その手を掴まれベッドに押しつけられた。 「なんでそんなに可愛いの、陽向」  そう言うと椎名はいきなり俺の後孔を突き始めた。 「っあぁっ、や、だ……ぁっ」 「やだじゃないだろ? 素直じゃないな、可愛い陽向の口は」 「あ、あ……、あっ、や、しぃなのば、かぁ……っ、」 「あーたまんねぇ……陽向マジでクッソ可愛すぎる。俺の天使……」  椎名はうっそりとした様子で舌なめずりをして、いつもより乱暴な口調で呟く。  さっきまでべそべそ泣いてたくせにー! 豹変するなよバカー! 「あぁっ、や、あっ、も、い……っ」  俺自身を椎名に掴まれ愛撫され、到達感が腰周りを襲う。椎名の動きが激しさを増してくる。 「陽向、イク顔……ちゃんと、見せて」  椎名が俺の顎を軽く掴んで正面を向かせた。  突かれる度に粘度の高い水音が響く。それが徐々に速くなって。 「しぃっ、なぁ……も、イク……で、るからぁ……っあぁっ」 「俺も……っ」  次に強く打ちつけられた瞬間、俺は椎名の手に白濁を放った。椎名もそれから少しして吐精した。  皆さん、コンドームって一箱いくつ入ってるか知ってますか? 一ダースですから十二個入りですね。  それを一度に半分以上使うってどういうことですかね。  真っ昼間から始めて夜中まで離してもらえず、朝起きたら朝じゃなかった俺の気持ち分かる?  目が覚めたら昼をだいぶ過ぎていたというね。ベッドに連れ込まれて二十四時間経ってますよ既に……。  土曜日でよかった。バイトない日でよかった。 「陽向おはよ。今日も可愛いな」  目が覚めたらやたらごきげんな表情(かお)をした恋人が俺の頭を撫でくりまわしていた。 「……おはよ、じゃねぇよ。……って、また声枯れてるじゃねぇか俺!」 「可愛い声沢山あげてたからなー。録音しておけばよかったなー」  ちょっと待ってください。  さっきまで俺の頭をいいこいいこしてた手が何故か今、俺の尻を(まさぐ)り倒してるんですが。 「椎名……おまえどこ触ってんの?」 「陽向がそばにいるとどうしても手が出てしまうな。困ったもんだ」  両手の平を上に向け、大仰にやれやれとかぶりを振る椎名――こんな仕草でさえ様になるから腹が立つ。 「困ったもんだ、じゃねぇよ……あれだけやってまだ足りないのか? どんだけ絶倫なんだよ椎名さんよ……」 「俺のこと受けとめてくれるんでしょ? 陽向」  今まで俺を避けたり悩んだりしてたらしい、いじらしさはどこへ行ったんでしょうか。きらきらを散りばめた瞳で笑う椎名は目の毒すぎる。自信に満ちたイケメンほどタチが悪く、無敵なものってなくない? 「モノには限度というものがあるんデスヨ、椎名サン」 「俺の陽向への想いに限度なんかないし」 「……もうしばらくセックスはしない」  毎回毎回毎回毎回こんなんじゃ身体がもたねぇよマジで。地を這うような声音でそう言い放つと、椎名はくちびるを尖らせてあからさまに拗ねる。 「えー……やだ」 「やだじゃねぇ。っつか椎名、俺のスマホ取って」  今、絶対足腰立たない自信あるから椎名に指図する。  椎名から携帯を受け取り、そっぽを向いてメッセージのチェックをする。あ、智明から来てる。『あれからどうしたー?仲直りしたん?』だって。そういや全然連絡するヒマなかったもんな。とりあえず返事しとこ。 「陽向ー、どうして俺と一緒にいるのに他の男にメッセージしてるの?」  ガン無視ですガン無視。 「ひーなた。……ひぃくーん?」  ひぃくんって何だ。無視だ無視。えっと、昨日はごめん――と。一応――仲直りはしたけど――諸事情により――現在進行形で――無視決め込んでる――と。 「陽向……シロクマ親子のDVD観ないの?」 「観る!」  音がする勢いで振り返る俺。正直、シロクマには勝てん。
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