別冊「夏色タイムリープ」一樹とタイチの休憩時間

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「理想は、杏が一度も死なず、普通に時を過ごして、それまでとそれから 普通に ごく普通に歳をとっていくこと だったんじゃないかと思うんだ」 タイチは僕が差し出したホットコーヒーのプルトップに指をかけながらそう口に出した。 カン。 誰もいないバスケコートのベンチに音が響く。 「うん。でも理想の通りにはいかないことが多いよな 俺は充分なんだけど、おまえにあまり会えなくなってる気がする。 あと俺の理想に必要なのはおまえが近くで笑っていてくれることのような気がする」 僕は恥ずかしげもなく久々に会った彼に言った。 久々じゃなきゃ親友のタイチにもこんなことは言わない。 「理想って、想い描くものだよきっと 何度も口に出すとわからなくなる 理想理想理想理想理想理想理想 これだけ並べると字に書いてずっと眺めているとだんだんなんて書いてあるかわからなくなる 字も図形みたいなもんだ。 同じもんをいくつも書いて眺めていると脳みそのなかで図形がバラバラになって認識できなくなる」 「お前の得意なナントカの法則だな。でも、いまに不満があれば変える努力を惜しむ必要はないよな」 「そのとおりだと俺は思うよ」 僕は煙草の煙を空に向けて大きく吐き出した。 さっきは畏れを抱いた空が今はただ、綺麗に、そして少し切なく胸をすくようだった
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