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三月二日金曜日。
パートが終わり、自宅のアパートに帰った小岩美絵は、小さな違和感を感じた。
鞄をリビングの床に置いて、ソファーに座り、テレビの電源を付けた時に、視界の変化に気が付いたのだ。
目が止まった、小さく開くカーテン。すぐに立ち上がり、そのカーテンを全開した。
『やられた』
その瞬間に頭が真っ白になり、彼女は感情を掻き乱した。
そこには、今朝干して出かけたはずの洗濯物が、一切合財無くなっていたのだ。
「嘘でしょ」
自声が小さく聞こえた。それでも、目の前の景色は何も変わらない。
左手で頭を抱えながら、この光景から目が離せなかった。
「最近、変な人がいるみたいよ。気持ち悪いよね。人の洗濯物を盗むって」
同僚達が職場で話していた、あの声が頭に響いた。
あの噂は、本当だったんだ。
感情が掻き乱れたまま、美絵はテーブルの上のスマホを手に取った。
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