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「臭いますね」  一週間程前。別の捜査で、あるリサイクルショップの買取書類に目を通していると、ふと、近野が隣でそう言ったのだ。 「臭う?」  坂下は、鼻を効かせながら、辺りを嗅いだ。だが、臭いらしい臭いは彼の鼻腔に入ってこなかった。 「坂下さん」  近野は、困り顔で坂下を見ていた。彼女は、手元の書類に指を指していた。 「こいつです」  内心、恥ずかしさで一杯だったが、それを出すまいと、必死に隠しながら尋ねた。 「怪しい奴でもいた?」  近野は頷いた。 「こいつ、持ってきてるものが新品の家電製品ばかりです」 「業者ってことはない?」  坂下は、念を押して聞いた。場合によっては、会社の発注ミスで仕入れ数を多く取り寄せてしまった際に、こういった店を利用する事だって少ないのだ。万が一、この人物がその経緯で持ち込んで来たとすれば、相手を不快にさせてしまう。中には、署にクレームを入れてくる連中だって存在するのだ。きちんとした裏どりは、必要になる。  しかし、近野は首を振った。 「違います。この臭いは、盗難かと」 「勘か?」 「勘ではなく、臭いですね」  彼女が向けてくるその目は、明らかに苛立ちと不快感を混ぜ合わせていた。    その顔には、坂下が嫌悪感を持った。だが、近野は構うことなく、立ち上がった。 「坂下さん、カメラでこの男の姿を見せてもらっていいですか?」  そう言って、坂下の返答を聞かぬまま近野は、店の責任者の元に向かった。 「ちょっと待て」  坂下のそんな声を、簡単に遇らって。
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