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それ以来、坂下には近野という女の存在が、特別なものに見えるようになっていた。
彼女は不思議な力を持っている。そんな気がしてならなかった。犯人を見つけ出す嗅覚というべきなのか。自分には持っていないそんな力を。
あれこれと頭を駆け巡らせていると、突然近野はこちらを振り向き、小さく口を開いた。
「なに?」
「臭いますね」
「臭う?」
振り向いたままの近野の目線は、すれ違った男に目を向いていた。
まさか。またか? 坂下は現状を疑った。
「坂下さん、行きましょう」
「行くって、お前」
近野は、そのまま向きを変えて歩き出した。その背中を、坂下は追いかけて行くしかなかった。
もしかしたら、この女。またやってくれるかもしれない。無意識にそんな期待感が、坂下の胸を躍らせた。
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