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近野と共に男を追った。相手はこちらに気が付く素振りすら見せず、進んでいく。近野はもしかしたら、自らの存在を消す力も持っているのかもしれない。坂下がそう思うくらい、男は無警戒に見えた。
しかし、男は突然に国道一号線道路から、左脇の一本の筋に入った。
その時、近野は立ち止まって、小さく振り向きながら、真っ直ぐ指を指した。
なぜ? なぜ辞める?
坂下には疑問が湧いた。だが、ここで声に出して尋ねる訳にはいかない。
近野は筋を見向きもせず、真っ直ぐ進んだ。その後ろから坂下も彼女に倣って続く。いかにも、赤の他人を粧いながら。
真っ直ぐと道路を進み、その次の筋を近野は曲がった。その際に携帯電話を取り出して、電話をする素振りを見せてきた。
坂下がそのまま前に進むと、筋からこちらを見る近野の目線から、坂下は勘を働かせた。
坂下は真っ直ぐ歩き続け、着信を告げた携帯電話を取り出した。
「すみません。バレたみたいです」
近野は言った。
「そうは見えなかったけどね」
坂下は答える。本当にそう思ったからだ。しかし、近野は違った。
「いえ、相手は気付いています」
「それも勘かな?」
「勘ではなく、臭いです」
「臭いねぇ」
近野は、そこに拘りがあるようで、またしても彼女から訂正してくる。
「でも顔は覚えているので、帰ってから調べてみます」
近野は続けた。
「調べるって、データベースは莫大な量だぞ」
「大丈夫です。自信があるんで」
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