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二人は再び合流をして、そのまま署に戻り、データベースから男を検索した。
数分後。近野からすぐに声が漏れた。
「やっぱり」
坂下は、近野のデスクのモニターに目をやった。
検索ワードは、『衣料品 窃盗』
「ブランドを盗んで、それを売る奴がいるじゃないですか? あいつ、なんかそんな気がしたんですよ。それにあの男、過去にも逮捕歴がありました」
「どうしてそれを?」
「前にこのデータを見ていた時に、あの男の顔があったような気がしたんです」
「それに」
彼女は続けた。
「明らかに組み合わせがおかしかったです」
「組み合わせって?」
「服装ですよ」
「服装? 普通の格好じゃなかったか?」
黒のダウンジャケットにジーンズにスニーカー。坂下は、男の身なりに、何も違和感を感じなかった。しかし、近野の目は違った。
「インナーに何万円もするブランド品のTシャツを着ているのに、アウターが五千円もしない安物。そんな格好、おかしくないですか?」
確かに、言われてみればそんな気もする。
「アウターにお金をかける人ならよく見かけますけど、インナーだけにお金をかける人なんて、見た事も聞いた事もありません。まあ、もしかしたらどこかにはいるかもしれないですけど、だけどそんなのは、とっても可能性の低い一部だけです。それに、この男は違うと思います」
「だって」
さらに彼女は続けた。
「前回の逮捕は、お金に困って起こした犯行だと、ここにデータとして残っています。お金のない人間がTシャツに何万円も出さないでしょ?」
つまり、こいつが犯人だ。近野はそう言いたいようだ。
しかし、坂下は引っかかっていた疑問をぶつけた。
「それより、君はあいつの身なりを見ただけで、それが分かったの?」
その問いに、近野は怯む気配がなかった。むしろ、自信を感じる。
「まあ。服が唯一の趣味なんで」
言葉が出なかった。改めて所轄員として過ごすには、勿体ないくらいの逸材だと思った。
「やっぱり、君すごいね」
「たまたまです」
「で、これからどうするの? 男の居場所なんてわからないでしょ? 引っ越ししている可能性だっであるし」
「確かにそうですね。でも、考えがあります」
「考え?」
近野は、自らのアイディアを話し出した。それを聞きながら、坂下は彼女の恐ろしさをさらに味わった。
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