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男の名前は権藤洋二。歳は今年で四十五歳になる。坂下の読み通り、権藤は以前の住居には、もう住んでいなかった。
役所に問い合わせてみたが、転居届は出されていない。つまり、権藤の居場所は闇の中。手がかりさえもなく、全く掴む事ができなかった。しかし、そんな状況にも、近野は臆する顔さえ見せなかった。
翌日。近野は数点のブランド服を持ってきた。
「これを付近の住人に頼んで、外に干してもらおうかと思います」
「大丈夫? これ、結構高いんじゃないか?」
それは坂下でもわかる高級ブランドの品物だった。パーカーにスウェットのセットアップ。あと、数枚のTシャツ。
「多分そうだと思います」
「多分って・・どこから持ってきたの?」
「もちろん家からです」
「何かあっても保険とかないよ」
「大丈夫です。だからこそ、必死になると思います」
必死になる・・・と思う?
「一人、お手伝いを使わしてもらいます」
「手伝いって、その言い方だと関係者じゃないよね?」
「大丈夫です。あの子は信用できる人間なので」
「誰?」
「弟です」
「家族を使うって事?」
「あの子はやれます。ただの大学生ですけど、信用はできますから。それに、どうせ暇でしょうしね」
「だけど、大丈夫か?」
「大丈夫です。あの子には、ちゃんと褒美で釣ってありますから」
そういうつもりじゃないんだが・・。
しかし、近野は薄い笑みを見せた。その顔は、どこか恐怖すら感じてしまうものだった。
一体どんな家系なんだ。坂下は、ただ笑うしかなかった。
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