橘 麗名(たちばな れいな)

2/5
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
 お母さんと過ごした記憶が、私にはあまりない。  いつも家に居なくて、私と妹を世話してくれたのは、お祖母(ばあ)ちゃんだ。  お父さんはフォトグラファーで、お父さんも家を留守にすることが多かった。  だから家族のぬくもりというものは、私の記憶にはない。  家に帰ってテレビを観れば、大抵のドラマにお母さんが映っている。 『ただいま』  テレビに向かって、そう言ったこともあったっけ。  家に居ないお母さんは、テレビの向こう側にいた。だから思わず、テレビに向かってそう言ってしまったんだ。  テレビの向こうにいるお母さんは、私の知っているお母さんとは違った。  まるで、光を放っているみたいに。お母さんは、一段と綺麗に見えた。  どんなに不機嫌でも、疲れていても、『今日、テレビに映ってたお母さん、とっても綺麗だったよ』そう言うと、お母さんは笑いながら、決まってこう返してきた。 『お母さんは"女優"だからね。"女優"はいつでも、誰よりも、綺麗じゃないといけないの』  その時のお母さんの顔が、私の目に焼きついている。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!