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お母さんと過ごした記憶が、私にはあまりない。
いつも家に居なくて、私と妹を世話してくれたのは、お祖母ちゃんだ。
お父さんはフォトグラファーで、お父さんも家を留守にすることが多かった。
だから家族のぬくもりというものは、私の記憶にはない。
家に帰ってテレビを観れば、大抵のドラマにお母さんが映っている。
『ただいま』
テレビに向かって、そう言ったこともあったっけ。
家に居ないお母さんは、テレビの向こう側にいた。だから思わず、テレビに向かってそう言ってしまったんだ。
テレビの向こうにいるお母さんは、私の知っているお母さんとは違った。
まるで、光を放っているみたいに。お母さんは、一段と綺麗に見えた。
どんなに不機嫌でも、疲れていても、『今日、テレビに映ってたお母さん、とっても綺麗だったよ』そう言うと、お母さんは笑いながら、決まってこう返してきた。
『お母さんは"女優"だからね。"女優"はいつでも、誰よりも、綺麗じゃないといけないの』
その時のお母さんの顔が、私の目に焼きついている。
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