21人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
お母さんは素っ気ない人だった。帰って来ても、『ごめんね。疲れているの』そう言って、すぐに眠ってしまう。
私がなにか失敗すると、強く叱りつけてきた。まるで、不機嫌をぶつけてくるみたいに。けれど妹のことはとても可愛がっていた。
いつからかお母さんは、たまに私に演技の指導をするようになった。きっかけは小学校の文集。私が将来の夢に、女優と書いたことだ。
なんとなく、という感じで、そう書いたことを覚えている。
それをお祖母ちゃんから聞いたお母さんは、私に演技を指導するようになった。
その時、必ず言われることがあった。
『下手ね、あなたは。女優には向かないわ』
なにがダメなのか。訊いてみても、はっきりした答は返ってこない。
それでもお母さんが帰ってくる度に、演技の指導は続いた。その度に酷評されるから、だんだんとその時間が嫌になっていった。
お母さんに褒めてもらいたくて、お母さんの映っているドラマや映画を観た。
仕草や表情、そうしたものを真似ると、とても怒られた。
ある日を境に、お母さんは私に演技を指導しなくなった。そしてほとんど私や、妹とも会話をしなくなった。
たまに家に帰ってきていたお母さんが、まったく帰って来なくなった時、お祖母ちゃんから、お母さんが白血病に罹って入院していることを知った。
なんだか自分勝手だ。その時、私はお母さんに対してそう思ったことを覚えている。
最初のコメントを投稿しよう!