橘 麗名(たちばな れいな)

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 お母さんは素っ気ない人だった。帰って来ても、『ごめんね。疲れているの』そう言って、すぐに眠ってしまう。  私がなにか失敗すると、強く叱りつけてきた。まるで、不機嫌をぶつけてくるみたいに。けれど妹のことはとても可愛がっていた。  いつからかお母さんは、たまに私に演技の指導をするようになった。きっかけは小学校の文集。私が将来の夢に、女優と書いたことだ。  なんとなく、という感じで、そう書いたことを覚えている。  それをお祖母(ばあ)ちゃんから聞いたお母さんは、私に演技を指導するようになった。  その時、必ず言われることがあった。 『下手ね、あなたは。女優には向かないわ』  なにがダメなのか。訊いてみても、はっきりした答は返ってこない。  それでもお母さんが帰ってくる度に、演技の指導は続いた。その度に酷評されるから、だんだんとその時間が嫌になっていった。  お母さんに褒めてもらいたくて、お母さんの映っているドラマや映画を観た。  仕草や表情、そうしたものを真似ると、とても怒られた。  ある日を境に、お母さんは私に演技を指導しなくなった。そしてほとんど私や、妹とも会話をしなくなった。  たまに家に帰ってきていたお母さんが、まったく帰って来なくなった時、お祖母(ばあ)ちゃんから、お母さんが白血病に罹って入院していることを知った。  なんだか自分勝手だ。その時、私はお母さんに対してそう思ったことを覚えている。  
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