バケモノの心

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 着いた。ここだッ!  遠目にも人影が目に入って、人間がいるのが分かる。  長い時、一人でいたせいか人の姿を見て不覚にも目頭が熱くなる。  ねえ、お話しよう?  また空では円を描き大きなトンビが飛び泣いていた。  ……泣いていたの。 「バケモノ」  あたしを見つけた子供が大声を出し大人に報告する。  報告し終えると近くにあった石を拾って投げつける。  ねえ、お話しよう? 「あっちいけッ!! こっちにくるなッ!」  あたしの目から温かいものが溢れ零れる。  これが今の現実。リアル。違う。違うッ。  ねえ、お話しよう? 「また来やがったのかッ!! 懲りないやつだッ!!」  大人は一斉に藁葺小屋に戻って各々武器を手に取る。  ねえ、お話しよう。お話したいだけなの。  現実、リアル、事実、世界、リアリティ。  逃げなきゃ殺される。殺される。分かってる。分かってるけど、もうどうする事もできない。大人や子供が作った輪の中心でかがみ込んで泣き続ける。子供が止まずに石を投げつける。輪の四方から棒や刃物の刃が飛んできてあたしを痛めつける。  痛い。痛い。痛い。  それでも、あたしはなにも出来ずに泣く。  あたしという存在が無くなるまで、泣く。  ずっと泣き続ける。  もう嫌。死にたい。  いつまで泣き続けただろう。痛みを感じなくなる。人の話し声も聞こえなくなる。  ふっと気づくと、あの赤と緑と青の三原色が混じり合うトンネルにあたしは居た。  声が聞こえてくる。  貴方は、気づいた。  ……一体、なにに?  孤独の寂しさ苦しみ辛さ、そして受け入れられない悲しさにです。  貴方は、成長した。  本当に成長したの?  でもまだダメです。  ダメならば殺して。  もうあんな辛い世界で生きていたくない。  死なせはしません。  貴方が本当に成長したのかその証を示してみなさい。  貴方が成長して真の意味で賢者になったならば、証を示す事ができるはずです。  証を示すってなに?  異世界に召喚された時に現れた黒い穴がトンネルの中央に浮かび上がる。その穴の真ん中が微かに光り、光の中からあの子が歩いてくる。私がバケモノと蔑みイジメていたあの子が。彼女の右眉尻は下がっており、困惑しているのがありありと分かる。  それでも彼女はあたしに向かい歩を進め歩み続ける。  厳かにゆらゆらり。  彼女も貴方が異世界転生した後の事を見ていました。  そっか見てたんだ。  静かに思うあたし。  多分、今まで散々イジメてきた事の復讐をされる。異世界で辛い目にあったあたしを嗤う。嗤い飛ばす。だって今はあたしの方がバケモノで彼女の方が優位なんだから。自業自得だよね。当たり前。分かってる。でも、それでも彼女とお話がしたい。  ねえ、お話しよう? 「バケモノ」  彼女は、私の目の前で立ち止まって言う。  あたしの心はドキッと脈打ち冷水を浴びせられたよう背筋が真っ直ぐに伸びる。
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