Side.Yamato キス

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Side.Yamato キス

「んっ……伊央利(いおり)……っ……」  伊央利の熱い舌が俺の口内を好きなように動き回る。  二人の唾液が混じり合い、唇からあふれて顎を滴るのを熱で浮かされたような頭で感じていた。  こんなふうに大人のキスを交わすようになってから何日も経つけど、俺はいまだにうまくそれに応えられず、ただ伊央利のリードに任せるしかできない。  俺と伊央利は二卵性双生児……双子と言え一卵性とは違い、外見はほとんど似ていない。  クールでかっこよくて女の子にもモテる伊央利。それに比べて俺は目立たないしヘタレだし、女の子にも全くモテない。  それでも、まぎれもなく同じ両親を持つ正真正銘の兄弟(ちなみに伊央利の方が兄である)で。  兄弟のスキンシップとしてはキス……それもこんな頭がクラクラするような激しいやつは、やり過ぎだろう。  それもそのはず、俺と伊央利は数週間前、お互いに兄弟以上の感情を抱き合っていると心が通じ合ったばかりなのだから。  近親相姦という言い方は生々しくて好きじゃないけど、俺と伊央利の関係は正にそれで、世間一般から見たら許されない禁忌の関係だ。  俺にしてみれば、好きになった相手が双子の兄だっただけということなのだけど、勿論そんな理由、誰にも認めてはもらえない。  二人の関係は、今は離れて暮らしている両親にさえ言えっこない最大の秘密だった。 「……大和(やまと)……」  キスの合間に伊央利が囁き、俺の頬に添えられていた右手が首筋を這って行く。  その手の動きにゾクリと妖しい感覚が体の奥から込み上げる。  伊央利の右手はそのまま下へと這わされ、衣服の上から俺の体をまさぐっていく。 「……っあ……」  服の上からの愛撫にさえ、俺の体は敏感に反応し、自分のものではないような甘ったるい声が零れ、それがなんとも恥ずかしい。 「大和……可愛い……好きだよ……」  俺以上に甘ったるい声で伊央利が囁き、右手が俺のパーカーの裾から中へと入って来る。  少しひんやりとした伊央利の手のひらを素肌に感じた瞬間、俺の体はピクリと強張ってしまう。  嫌なわけでは決してない。ただこれから先の未知の行為に少しの不安と怖さを感じてしまうだけだ。  けれど、伊央利は俺が体を強張らせると、ピタリと手をとめた。  そしてチュッと、やたらとエロい音を立て、キスもおしまいにしてしまう。 「ごめん……大和……」  困ったように微笑みながら、謝る伊央利。  何にも謝ることなんかないのに、どうして謝るんだろう?  パーカーの中に入っていた右手は、今は俺の背中をあやすように優しく撫でている。 「伊央利……俺……」 「そんな顔すんな、大和。……俺、まだ待てるから」 「……伊央利……」 「ほら、おいで」  伊央利が俺を引き寄せ、腕の中に抱きしめたままベッドに横になった。 「晩飯まで少し寝ろよ。ここ数日、おまえ勉強漬けで寝不足気味だろ? 大和」 「うん……」  俺たちは高校三年、受験生で、同じ大学を目指している。  伊央利は元々頭が良いので希望しているW大は余裕で合格圏内だし、伊央利と共に勉強に励んでいるおかげで、俺も合格圏内というお墨付きを担任から貰っている。  伊央利の腕の中で目を閉じると、ふわりとまぶたの上にキスが落とされた。俺の中でくすぶっている欲望の熱がまた少し上がる。  こんな状態じゃとても眠れそうにないよ、伊央利。  夢の中じゃもう数えきれないくらい伊央利に抱かれているのに、現実ではいまだ俺たちはキスプラスちょっとというところで止まっていた。  怖がりの俺に伊央利が合わせてくれているという状態で。  最後の一線は超えられずにいる。 「好きだよ……大和……」 「俺も……好き……伊央利……」  切なさを言葉に変え、俺は伊央利のシャツの胸元に頬を擦り付けた。
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