いが~み漫才

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「お、おこんばんは~?」 「そやそや、それぐらいがしおらしいてちょうどええわ」 「――そういえば、玄関に”なかじま”さんと名前があがってましたわ」 「どうりで立派なお住まいやと思うたわ! ええ家住んではるなぁ! しかし」 「けど、名前は表札ではのうてボロボロの紙切れに手書きで書いてありましたわ」 「よけいなこと言わんでええねん」 「なかじまさま。これを読んでおられましたら、すみません」 「すみません。あやまるとよけいいやらしいな、しかし。ほんとに許してね♡」 「よっしゃ! キー坊! わいについてこい!」 「そやけど、いが~みくん。なかは真っ暗やな。ぼく前がよう見えへんわ?」 「わいのおしりに顔を押しつけて、なに言うとんねん。ちょっと下がらんかい!」 「あっ? どうやら廊下が見えますけれど、”お菓子の家”はどこにあるんでしょうね?」 「”お菓子の家”というくらいやから、台所のほうとちゃうか?」 「そういや? ”お菓子の家”ってグリム兄弟童話に出てくる、ヘンゼルとグレーテルのお話のなかのお家のことですね」 「そうや! ヘンちゃんとグレちゃんのお話や」  ペシン! 「ヘンちゃんとグレちゃんって、なれなれしく言いないな!」 「わ、わいは愛情をこめて言うとるんや! あの子らじつに庶民的やないか! しかし」 「西洋のお話に庶民的ってへんな言い方しなさんな! それよりどんなお話やったかなぁ? グリム兄弟が作ったんですよね? わた~しが~、ささげえ~た、そのひ~と~にぃ~♪ あ~な~た、だけよ~とすがってぇ、泣いたぁ~♪――」  ベシン! 「そりゃ、ぴんから兄弟や! 女のみち を歌ってどないすんねん! 宮史郎に怒られるでえ! しかし」 「どっちか言うたら、グリム兄弟に怒られそうですけど、ちがいましたか?」 「ぜんぜん! ちがうわい! ええか! ヘンちゃんとグレちゃんのお話は、ふたりのおとっつあんが、再婚相手の女にそそのかされて、ふたりを森の奥深くに捨てに行くっちゅう話や! そいで森で迷ったふたりが偶然みつけたお家が”お菓子の家”やった」 「ああ! そうでした! 森で迷ったこどもたちが、”お菓子の家”をみつけて美味しく召しあがられる話でしたね!」 「――それがや。じつはその”お菓子の家”は悪い魔女がつくりだした幻影やった。ヘンちゃんは魔女に囚われて、グレちゃんは魔女のお手伝いにこき使われることになるんや……」 「い、いが~みくん。ぼ、ぼく、なんか怖くなってきたわ」 「それからや、腹をすかせた魔女が もうがまんできひん! ヘンちゃんを喰うたれ! グレちゃん! はよぉ! かまどに火をおこしてやぁー! と言うて、わめきだしたんや!」 「う、うわーっ! 怖いなぁ。魔女ってほんま恐ろしいんやねぇ」 「そやけど、グレちゃんは機転がきいたんや! 燃え盛るかまどを前にしてこう言ったんや! ねえ? 魔女のおばあさん? かまどの中の様子がおかしいんだけど? どうやって中をたしかめたらいいのぉ?」 「うう、ブルブル」 「なんだい? この娘は? かまどはこうやってたしかめるんじゃよ。 と魔女がかまどの中をのぞき込んだところ――。 えいっ! グレちゃんが魔女のおしりを押して、かまどの中に放りこんだ。 かまどの中から ギャーッ! 魔女のさけび声がきこえた」 「こ、こわーっ! グレちゃん怖すぎですやんか! 魔女を火が燃え盛るかまどに放りこんでしまったんですか?」 「ああ、そうや。おそらく彼女もだいぶ追い詰められておったんやなぁ」 「でも、悪い魔女だったから、よかったんとちゃいますか?」 「そりゃそうやで! わいがグレちゃんやったとしてもそうしとったわい!」 「でも、よく考えると怖い話ですよね?」 「そうや、じつはこの先がもっと怖いんや」 「えっ? これ以上恐くなるところがありましたっけ?」 「――ふたりは、魔女のところから逃げだして、どうにかこうにかお家に戻ってこれたんや。すると、おとっつあんが、ひとりポツンとお家の中のかまどの前に立っておったんやそうや。 「お、おまえたちよく無事だったな!」 「おとうさん! ぼくたち戻ってきたよ! もうぼくたちを捨てに行っちゃいやだよ!」 「ああ! 二度とそんなことはするもんか! もう、けっしておまえたちを手放しはしないぞう!」 「――再婚相手のお義母さんは?」 「……ああ、あいつは死んじまったよ……そうさ、死んじまった。し、死んだんだよ。ふふふっ……」
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