二十九話 美しい色欲の蠍

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二十九話 美しい色欲の蠍

「 なぁ、女王様。何故、私とはヤらないんだ? 」 『 んっ? 』 数日前に発情期に入ってた俺へと、突然に告げたブラオンの言葉 余りにも突発で一瞬、理解と反応に困れば彼は首を振りその場を立ち去った 「 図々しいな……なんでもない。忘れてくれ 」 そう言った彼の言葉が少しだけ引っ掛かる ブラオンの体内には貯精嚢を含めて十一個分が入ってる 一度行為をすれば二度目は全て無くした状態で交尾をすると思っていたし、当時は選んでた雄の中で一番まともだったから早々に終わらせたかっただけ そう思うと、今は交尾をするのを求められるなら、したいと思うぐらいには欲がある 『( あ、誘えばよかった…… )』 褐色肌でイケメンの乱れる姿をまた見れるなら、それで十分なのに…… 改めて考えれば、勿体無いことをしたと思いながら視線を本日も訪れる、十%に含まれる雄達を見下げる 俺はもっと雄は貴重なのかと思ってたんだが、 よくよく考えて単純計算すれば、百人魔物がいたら十人は雄になる この城だけで二千人ちょっとの人数がいるから、二百匹は無生物ではない“雄“に属する まぁ、雄っていうだけで魔王クラスではない低級クラスの増産型に含まれる ハクのような中級クラスの雄には会ってるが、馬鹿だし頭はよくない 増産型同士の間に生まれた雄ってだけで、簡単に言えば雑魚になる 『 ……はぁ、 』 「 次、来るといい 」 野生の生き物でも、人間の本質でも、有能な相手を選ぶのは必然的であり 特に俺はその色好みが激しいと言われている 外見、知能、経済力、力(魔力)、好意、それ等をクリアしてる者を求めてしまう為に その辺の雄なんて眼中に無くなる 俺の気に入ってる、シヴァは珍しいだろ 元衛兵であり、死鳥(しちょう)という種族に属してる外見は烏みたいな下級クラスだった だが、その一途な想いと、羽根を何度か与えてることで中級クラスの雄へと昇格していた 彼奴のような特例は有るにしろ、 今こうして眺めてる雄には興味が湧かない 『 ルビー、次は呼ばなくていい 』 「 そう?母さん、疲れた? 」 『 嗚呼、疲れた…… 』 意味もなく、交尾を求める雄を見るのも疲れる それならよく知る人物といちゃつきたい感覚に、欠伸交じりの溜め息が漏れれば、 ルビーは尾を引きずり覗き込んできた 「 今日は、いつもよりお疲れだね?ボク、聞くよ 」 『 ありがと、ルビー……大丈夫だ 』 手を伸ばし獣の頬へと触れれば、赤い瞳を細めて軽くすり寄ってくる姿は大きいけど愛らしい 死鳥とは全く違う美しい姿、流石ネイビーの子だと思いながら触れていれば足音に気付く 「 ルイ様、少しよろしいですか? 」 『 ん?なに 』 ハクの声に玉座から身を乗りだし、顔を向ければ彼は僅かな笑みを浮かべた 「 ブラオン様が陣痛に入られたので、立ち会い致しますか? 」 『 お、するする! 』 眠気は一気に消え去り、そんな時期なのかと嬉しくなればルビーにパールの世話を任せて、ハクと共にブラオンが使う部屋へと向かった 「 待て。御前は入るのは止めて置いた方がいい 」 『 なんで? 』 扉の前では、誰も入らせないようにネイビーが立っていて俺が来るなり片手を出し、停止の合図をする 何故止めた方がいいのだろうか? 女王蜂が来れば生みやすいと言ったのは彼等なのに…… 「 それは、御前が苦手な分類だからだ。気が立ってるのに変な顔でも向けられたら辛いだろ 」 『 ……苦手な分類って、まさか… 』 ネイビーの言葉に心当たりがあり、視線をハクへとやれば彼は眉を下げ苦笑いを浮かべる 「 ブラオンは昆虫の姿をしてますので…… 」 「 御前は昆虫系が苦手だろ?デカくて毒を持つブラオンに近付くのはやめとけ、その内生まれるさ 」 昆虫…確かにそう聞くと青ざめてしまう 動物ならモフりにいく!みたいな感覚だが、昆虫なら脚がすくむ 只でさえ、ルビーが捕まえるデカい昆虫でさえ苦手なのに……だが、相手はブラオンだし俺の子を産むために頑張ってるやつだ 『 それでも近くで応援したい。御前等みたいに……ブラオンだけ一人ってのは気に入らない 』 「 ……御前は婦人科か。はぁー……どうなっても知らんぞ。俺は入らないからな 」 『 大丈夫!顔には出さないよう努力するから 』 尚更悪いと呟かれたが、ネイビーは溜め息を吐き扉を開いた 相変わらず中は薄暗くて、背後の扉がパタリと閉まれば真っ暗な空間が広がる 『 ……ブラオン……? 』 どこにいるのだろうか、近付かないと急に襲われても怖いと思い一歩ずつ近づけば、大型の虫の脚の動く音に鳥肌は立つ 「 ……はぁー……女王様か。私の姿は苦手だろうに… 」 『 それは見ないと分からないし……子供の父親を嫌うわけないだろ 』 父親……自分で言ってあれだが、父親多すぎな 流石に日本だったら問題になってるぐらいの父親の多さだが、ブラオンは鼻で笑い此方へと近付く 「 父親か……ならば、嫌ってくれるなよ… 」 『 !! 』 暗闇に慣れてきた目は、その重く動いた姿を見ては口は開いたまま、閉じるのを忘れ驚きながら見惚れる 「 ……醜いだろ 」 『 スコーピオン………… 』 本で見たダイオウサソリに見えるほど、硬い鎧で覆われた身体に、反り上げた尻尾の先は鋭く、僅かな体液が垂れ、それが床へと当たる度にじゅっと溶けるような音が聞こえる 猛毒を持つ蠍なんだと分かってるけど、それよりも思っていた以上に綺麗だ 種を“皇帝“と呼ぶ程に相応しいほどにその佇まいは風格がある 『 ………… 』 「 ……何か…言ってくれないか? 」 『 あ、いや。余りにもかっこよくて綺麗だから見惚れていた 』 他の動物が混じることのない、全てが巨大な蠍に見える彼は、案外つぶらな瞳を丸くして尻尾を揺らした 飛び散る毒にびひるけど言葉を聞く 「 そ、そんな……御世辞は通用しないぜ。女王様は、虫が嫌いって…… 」 『 食べるのは嫌いだが、綺麗なのを見るのは好きだ。触ってもいいか? 』 「 あ、あぁ……好きに触ってくれ…… 」 照れてるのだろ、分かりやすい奴だと思って近づけば爪の方へと手を当てポンポンと硬い鎧のような身体を叩けば、彼は動揺しながら身を屈める 「 ……この姿で触られるのは始めてだ… 」 『 そうなのか?凄く興味あるが 』 蠍を触ったことがない俺には、凄く興味深くて楽しいと思うほどなんだが… ブラオンは視線を落とし、答えた 「 ……昔、クロエ様に誘われたことがあってな。その時に興奮の余り、この姿になったら気持ち悪いと言われ…それ以来、余り女王蜂には見せたくないんだ…… 」 『 何故だ? 』 「 この姿で交尾して欲しいと、言ったら……嫌だろ? 」 『 ………… 』 改めてその姿の全体を見るものの、俺の身体はこいつの爪サイズの半分もない 下手したら爪で掴まれたら、身体が真っ二つになりそうなほどにデカいのに、交尾してほしい? いや、頭を抱えてしまうだろ…… 『 あのさ、普通に考えても俺のイチモツ……届かねぇと思う 』 「 そ、そうか……女王様は意思的に本来の姿になれないのか。それは申し訳無い 」 『 だろ?だから、無理だ。気持ちは受け取っておく 』 マジで交尾なんてしたら、大型犬のメス犬の尻に抱きつく、小型犬のオスみたいになるぞ それより悲惨だな、サイズが全く違うんだから すまないと、話を逸らすことが出来て何度か爪を叩けば、彼は腰と尻尾を下げる 「 嗚呼…。っ、そろそろ、産まれそうだ…… 」 『 産まれるか?頑張れ 』 「 他の奴より、俺はデカいから問題ないだろ……それに、数個産む…… 」 『 ん? 』 待て、一回の交尾に一個じゃ無かったけ!? なに数個産むって、もしかして貯精嚢の使ってた系!? 余り腹の膨らみが分からなかったのって、蠍だったからか! ……俺はまだハクに聞いてないことが多すぎたと、一人パニックになっていればブラオンは身体に力を入れカーペットの上へと卵を産み落とす 『( 御前はウミガメか…… )』 つぶらな瞳は涙目になってるのを見て、何度か爪を撫でていれば短時間の間に産み終えたらしく、彼は身体を起こし卵の方を見る 「 女王様……三つ……三つ生んだぞ。また直ぐに精子かけて交ぜておくから、楽しみにしててくれ 」 『 どう反応していいかわからないが、ルビーが喜びそうだ。まぁ、ブラオン、お疲れ様……ありがとうな 』 「 そんな、礼など必要ない。この痛みの快楽を得ることが出来てクセになりそうなほどだ 」 『 ヘンタイか 』 蠍って色欲の象徴って言うもんな ブラオンも痛みやら産むときの快楽が気に入るような変態なら、働き蜂を沢山産んで貰えそうで安心した 『 卵…って、ネイビー達とそんな大きさは変わんないぞ。真ん丸いが…… 』 「 彼等は獣寄りだろ?私は昆虫だ。卵の形もそれなりに違うものさ… 」 褐色の卵を布で三つくるんで持てば、姿を人へと戻した彼は目元を拭いてから腕を伸ばして来た 『 そう言うものなのか…… 』 抱かせるように返せば、卵を見てから背中へと布で固定しおんぶした 『 えっ?持っておくのか? 』 「 嗚呼……本能的に背中に抱えたくなる。産まれたら教えるぜ 」 『( スコーピオンンンッ!! )』 蠍って繁殖形態は卵胎生で、十数匹の幼体を産むらしく、産まれたばかりの幼体をメスを背中に乗せて保護するらしいが 卵から産まれてもこいつは、背中で保護してそうだな…… ルビーが世話できなくてショック受けそうだ 「 えぇー!!ボクの、けらいのお世話なしー? 」 『( ほら、やっぱり )』 「 我が子は自分で護りたいものさ! 」 清々しく笑って歩き去ったけど レーザーコートを着た、褐色肌のイケメンがおんぶ紐のように布を使って、卵を三つ背中に背負ってたら違和感あるぞ あれが目の前に通る度に吹き出す自信があるから、慣れよう 「 あ、ブラオン!ボクにも抱っこー! 」 「 ヒヨヒヨ!! 」 「 ルビーはパールいるだろ!それに、パールは抱っこできないほど小さいからだめ 」 やっぱり産んで直ぐに動ける彼等の体力に感心して、その背中を見ていれば背後からアランはやって来た 「 凄いね……次は、俺の番かな? 」 『 そうだな。サタンは数年は腹に抱えてそうだからなぁ……頑張れよ? 』 「 うん、その時は傍にいてね 」 アランはもう少し時間がかかるだろ それでも振り返り、腹へと触れれば僅かな膨らみは分かる 言葉よりも不安そうな彼を僅に見上げれば、俺の頬に触れ額へと口付けを落とす 「 ……大好きだよ、ルイ 」 『 嗚呼、俺もだ 』 「 俺として?それとも、雄として? 」 『 ふっ、さぁーな 』 教えてやらないと笑えば、彼もまた笑顔を向けブラオン達とは反対の方に歩く俺の隣へと来る 「 言わないのは狡いなー。まぁいいけど、俺からの好きな気持ちは変わんないし 」 『 ふっ、ありがとうな 』 昔の俺を知っている、それだけで心の安らぎがある ブラオンの子は三匹とも働き蜂だろう ハクが短時間で産まれるのは個体は注いだ魔力が少なくと働き蜂になると言ってた それもいいじゃないか…… 元気に生まれるなら、なんだっていい
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