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三十七話 人間と魔物の差
『 なぁ、ブラオン……。その頭と左右の肩に乗ってる蜘蛛?はなんだ?信号機のようにカラーが三種類なのも気になるが…… 』
いつもの様に女王蜂の玉座の間にて
それなりに訪問者を相手にしていれば、朝から目についていた蠍のブラオン
今日は卵をおんぶしてないし、大事そうにしてたのにその卵はどうした?とばかりに問えば、彼は当たり前のように蜘蛛を触りながら答えた
まさかな……
「 ん?あの卵から生まれたんだ。優秀な働き蜂だぜ 」
『 いや、蜘蛛だろ…… 』
やっぱりか……それも、蜘蛛
タランチュラみたいだが、毛色が朱色、藍色、深緑色と其々に違うが、それでも蜘蛛だ
蠍から蜘蛛が生まれたことが驚きだが、そんなことよりも鳥肌が立つ
根本的に虫が苦手な為に、特に蜘蛛やらゴキブリは大の苦手な分類にはいる
蠍は、見た目が虫には見えないし…鎧を着てると思えばいい
だが、蜘蛛だぜ……毛むくじゃらで、目が怖くて……
考えるだけで頭が痛くなる
「 ……もしかして、コイツ等が苦手か? 」
「 苦手と言うか、大嫌いなんだよ。ルイは蜘蛛がね 」
「「 キュキュッ?? 」」
『 アラン……余計なことを言わなくていい 』
同じく立っていたアランは口を挟みサラッと言えば、俺は止めようとするも目線を向けられる
「 だって、当たり前でしょ?考えてみてよ、自分の子供が蜘蛛みたいな昆虫だなんて、気持ち悪いよ 」
『 アラ…… 』
言葉を発しようとしたが、ブラオンの悲し気な顔を見て、なにも言えなくなった
彼だって蠍の姿が醜いと、クロエから文句を言われた立場だ
それなのに、子供まで蔑まれたら立場なんて無くなるだろ……
「 そう、だよな……すまない。少し用事を思い出した……失礼する 」
『 ちょっ……チッ、アラン!! 』
背を向け玉座の間から立ち去った、ブラオンを引き止める手段なんて分からず
八つ当たりのようにアランの名を呼べば、彼は目線を反らし横へと落とした
「 俺だって……馬が生まれて来るなんて思わなかった…… 」
『 ……っ 』
子を宿したことを喜んでも、生まれてくる子の姿は全く違う
特に俺やアランは人間だった頃の記憶があるから、子供は人の姿をしてると思い込んでいる
アランは、ルアナの姿を見て喜んでいても…二人目を望まなくなったのはその姿からだ
見た目は人同士、なのに生まれたのは四足歩行の馬だったからだ
「 ごめん、仕事場に戻る 」
居たたまれなくなったアランはその場を離れ、仕事場へと戻れば玉座には静かな空気が流れる
嗚呼、やらかした……そう、気付いた時には此処にいる全員を傷付けていた
「 今は、蜘蛛の姿かも知れないが……働き蜂なら人寄りには成長出来るぞ。俺等のようにほぼ人なのかは……分からないが 」
「 烏だった自分ですら人の姿になれました。きっと…… 」
『 なぁ、御前等は……何を言いたいんだ? 』
「「 !! 」」
どっちをフォローしたいんだ
ブラオンか?俺か?
遠回しで言ってる意味が分からなくて、心が冷えていく感覚がすれば、声すらどこか低くなる
女王蜂が不機嫌になれば、繁殖に影響する
咄嗟に察した、彼等は焦りを見せるのが……また腹が立つ
「 蜘蛛が嫌いでも、将来は有望だと言いたいんだ。ルビーだって人の姿になれただろ! 」
「 えぇ、パールは幼いですが魔王クラスなので…… 」
「 ルイ様、見た目は気にしなくとも…近い将来は… 」
見た目で判断してる?あぁ、してたよ
今もそうだ、全く否定はしないが……逆にそこまで言葉を投げ掛けられると感に触る
『 だからなんだ。どんなに人の姿になろうが、御前等は角の生えた魔物だろ。俺は魔物の子を孕ませてるんだぞ 』
「 女王蜂だから、当たり前だろ? 」
「 今更、何をおっしゃいますか?ルイ様は魔王ですよ 」
あぁ……コイツ等には何も分からないんだ
どんな姿に生まれようが、生まれながらの役目を全う出来れば其だけでいい
見た目なんて気にするのは女王蜂の好みと言いたいんだろうな……
そうじゃないのに……随分と寂しいものだ
『 ……人間の若い男を連れてこい。生け捕りならいい 』
「 女王蜂の命令ならば…… 」
魔王、魔物……俺がどんな子を求めようが人の姿をしてはないのだろうか
ならば、検証してもいいだろう……?
冷酷非道な女王蜂と言われるなら、それでいい
「 へぇー?そっちが出向いてくれる予定だったんだぁ? 」
「「 !!? 」」
『 誰だ……? 』
ふっと聞こえた声に顔を上げ、ボロの布切れを羽織り、フードを来た青年は口角を上げ、腰に差していた剣を抜いた
「 僕は勇者……女王蜂、その首を貰うよ 」
「 ここまで来たのか!?衛兵!!! 」
「 ルイ様!どうかお逃げください! 」
ネイビーの声と共に駆け寄って集まる衛兵と、焦るハクの言葉に身体はその場から動けず、只その声を発する青年の顔を見たかった
『 嗚呼……いいタイミングじゃないか。ネイビー、そいつを捕らえろ 』
「 はっ! 」
「 僕とやりあう気?無駄だと思う……おっと!? 」
「 勇者?へぇ、勇者?勇者の剣もないくせに! 」
おや?去ったはずのアランまで来たと言うか……さっきのネイビーの声で敵が来た事に出てきたのだろう
わらわらと集まるなかで、先に斬りかかったのはアランだった
「 っ!勇者の剣は……魔物が奪ってると聞いた! 」
「 ごめんね、それ俺が持ってる 」
「 はぁ!?なっ、くっ!! 」
『 アラン、捕らえるんだぞ。殺すなよ 』
「 はいよ 」
アランの剣は黒く輝いているが、前は勇者の剣だったとは聞いた
牢屋から解放される変わりに、女王蜂を命を懸けて守る、と言う契約をサタンとした為に
アランは騎士として此処にいるのだろう……、俺の行き先、居る場所がアランの居場所だ
「 っ!! 」
「 ほら、どうしたの?勇者を名乗るなら、元勇者の俺を倒しなよ! 」
妊娠してるネイビーやハクは手を出すことなく、捕らえるタイミングを見ているが
アランの八つ当たりと言うままに相手をする事を知らない、現勇者の青年
被っていたフードは避けた事により外れ、後ろに下がればアランや俺は驚いた
「 はっ……はぁ…… 」
「 なんで……? 」
動きが止まったアランは、その外見を見てから俺の方に視線をやる
そして周りにいる彼等もまた、俺達とその元勇者を見比べた
「 君は……誰? 」
アランの問い掛けに、勇者の青年…ではなく二十歳未満の少年は切れた頬に手を当て、血を拭いては
その青い目で睨み、ストレートの黒髪を揺らし答えた
「 人は僕を、神の落とし子と呼ぶ…。僕は……ジャック。勇者だ 」
『 ……捕らえろ 』
「 なっ!ちょっとは聞けよ!! 」
顔を見たくもないし、名前なんてどうでもいい
直ぐにでも牢屋にぶちこめと片手で指示すれば、彼等は一斉に取り押さえ、少年は地面に伏せながら喚く
「 ふざけんな!折角ここまで乗り込んだのに!!離せ!女王蜂を殺させろよ!! 」
「 黙れ 」
「 さっさと牢屋に入れて、餓死させましょう 」
鎖で繋がれ、ネイビーやハクと共に連れて行かれる
勇者を名乗る少年の声を遠くに聞けば、俺とアランの視線は重なる
どちらも同じ事を考えていたらしい
「 ……なんで、君に似てるの? 」
『 馬鹿いえ。御前に似てただろ 』
「 口元や輪郭は君だったじゃん! 」
『 目元や眉は御前だがな 』
御互いに学生の頃の自分達に似てることに気付いた
けれど、どこか自身とも似てて、他人のような感覚は全くしない
『 ……似た奴はいくらでもいる。気のせいだろ 』
何故、今のタイミングで似た奴と出会うことになったんだ
一旦、俺とアランに似た現勇者は放置して、ブラオンを探すことにした
勇者は今頃、アランが入っていた地下牢にでもいるだろう
彼奴の事は殺すなと言ってるから殺しはしないが、問題は……傷付けてしまった旦那だ
旦那と言う言い方はちょっと面白いな、
いったい何人の旦那がいるんだと自身でツッコミをしてしまうほど
『 ……いた 』
ブラオンが行きそうな場所を転々と探し、見掛けた先は中庭にあるベンチに座っていた
明らかに落ち込んでいる後ろ姿に溜め息は漏れ、こういうときの言葉は慎重に選びたくとも、選べない質でな
首元に手を当て、少し考えては近寄る
『 なぁ、ブラオン…… 』
名を呼べばピクリと反応を示す
ブラオンやネイビー、いや魔物達は気配や嗅覚が鋭いから、俺の存在には気付いただろう
それでも、反応してしまうぐらい気にしていたのなら、申し訳ない
『 さっきは…ごめんな。言い過ぎた 』
「 ……女王様は正しい事を言ったまでだ。何も謝ることはない 」
『 んや、俺が謝りたい。だって、御前は旦那で……その子等は、子供だし…… 』
横へと行けば、彼の膝の上でじっとしてる三匹の蜘蛛
やっぱり、纏まって固まってたりするとちょっと鳥肌は立つが子供には変わりないんだ……
どんな姿でもいい、そうルビーが生まれた時に思ったんだから、今更蜘蛛なんて……
『 よく見れば可愛いじゃないか。毛むくじゃらで小さくて……目が沢山あって…… 』
「 無理なら、無理と言えばいい。私は傷付かない。コイツ等も同じだ 」
やっぱり無理かも……なんて思ってたらブラオンの視線は手元から俺へと向けられた
玉座の間を去るときに見た、一瞬の寂し気な表情ではなく
今は真っ直ぐに見詰めてくる
何を思ってるのか、分からない……
『 なんでそんな事を言うんだよ……なん、っ……! 』
彼の瞳から光が消えた瞬間
背中に感じる寒気に息を飲んだ
「 どんな姿をしていようが、貴方を守る駒でしかない。無性別の働き蜂の見た目など、貴方に関係無いからな 」
働き蜂……
行為をして、彼が産んだ子は三匹とも無性別の働き蜂
それは、下僕とも言える程の下級の立場
増やす必要があると、ハクにも言われていた下級ランク
どんな事すら、一生懸命にこなす彼等は食糧が不足した時の非常食
だから、働けるならどんな姿でもいいんだ……
子供とか考えてないのか、自分の子が自分に似てることを嬉しいと思わないのか
『 なんだよそれ……捨て駒だから、どんな姿でもいいって言うのか…… 』
「 嗚呼、それが働き蜂だ 」
『 ……俺は自分の子を捨て駒だなんて思ったことはない!! 』
見た目はともあれ、捨て駒と言われた言葉に腹が立つ
前に、シヴァが自分は捨て駒と笑っていた時や、ルビーの自分を大切にしない言動には腹を立てた事もあるが
産まれてきたばかりの子を蔑むのだけは許せなかった
『 はぁ……御前達は女王蜂や働き蜂やら気にして、それで立場を決めてるかも知れないがな……ルビーもパールも、ルアナも俺にとっては我が子だ。変えなんてないんだよ! 』
視線の端に、アラン達の姿があった
俺がいないことで探したのだろう
今は彼等に構う暇なんてないぐらい、ブラオンに言いたかった事を声を荒くして告げれば、彼は僅に笑った
「 それは、上級クラスの子だからだ。それに…アンタはクロエの子を喰ってるじゃないか 」
『 ふざけんな!! 』
「 っ……!! 」
ブラオンは少しは話が通じる奴かと思っていた
筋肉馬鹿でいつも俺を女王と呼んで、どこか壁があったけれど、いい奴には変わりなかった
好意を持ち、此処に止まって欲しいと願うぐらいにはお互いを知り合えたと思うのに…
こんな、言い方はあんまりだろ!?
胸ぐらを掴み、軽く引き寄せれば膝にいた蜘蛛は横へと逃げて、俺達を見上げる
『 死んで遺体を裏に積み上げて放置してるような御前等が、火葬も埋葬もしないから、俺が喰ってるんだろ!好き好んで、昨日挨拶してきた奴を喰うなんてしねぇよ!!つーか、なんでそんなひねくれたんだよ。何も思わない?馬鹿言え、なにか思ってるからそんな態度なんだろ!言いたいことがあるなら、言えよ! 』
マシンガンの様に言いたいだけ、いい放った俺に
彼の瞳は僅に瞳孔が開き、直ぐに視線を横へとずらして目線を反らした
「 ……俺はただ、アンタの期待に答えられなかったからだ…… 」
『 なにが…… 』
期待?俺がいつ、期待したんだ
「 ……苦手な蜘蛛を産んだ俺がもし、また同じ蜘蛛を産んだなら……嫌だろう。なら…コイツ等は、ルビーにでも喰わせようと……思っていた…… 」
『 !! 』
俺が蜘蛛が苦手だ知って、それを産んでしまった事に後悔して、子供を無かったようにしようと考えていたのか
だから、餌として割り切るために冷たい態度で引き離そうとした
此処に座って蜘蛛を眺めていたのは、御別れを惜しんでいたのか……
『 なんで、苦手だからって餌にするんだ……認めない。俺は認めないからな 』
「 働き蜂として目につく場所にいるのすら、嫌だろう……。嫌いなんだろ、蜘蛛は…… 」
『 嗚呼、否定しない。大嫌いだよ……でもな、見て見ろよ 』
「 …………! 」
この子達は、俺達の会話をよく理解してる
だから父親を守ろうともせずに、只結論が出るまで悲し気な雰囲気をして待っていた
沢山ある目を潤ませて、今にでも泣きそうな蜘蛛を見れば、大嫌いとか言えないほどに胸が締め付けられる
『 ……生まれてきて、喰われたいと望むわけないだろ。蜘蛛は嫌いだが……子は嫌いじゃない…… 』
しゃがみこみ、蜘蛛の方へと片手を出しておいで、と小さく告げれば戸惑いながら手と俺を見上げた蜘蛛は、ぴょっと飛び付き、そのまま人の姿へと変わった
幼児の男の子達は泣いていた
「 うぁぁあ!ままっ! 」
「 ママっ! 」
「 ふえぇ、まま! 」
『 綺麗な髪色じゃないか……それにあの多い毛は御前達にとって服なんだな……。可愛いよ……可愛い我が子だ 』
人の姿になれば、どこか面影がブラオンに似てるのが分かる
フワフワとしたセーターのような袖の長い服を着て、エルフのように尖った耳は其々に高さや角度が違う
似た三匹かと思っていたが、こうしてみれば個性が
あって可愛い
「 ……そいつ等は、虫で…蜘蛛だ。下級の無性別…… 」
『 例えそうだとしても、俺の子だ 』
同じ赤い目をしてるのに、髪色も耳の形も其々に違って一人ずつ、涙を拭いて頭を撫でれば笑みを向ける
『 朱色…御前は、ローズ。赤い薔薇の様に美しく成長するだろう 』
「 ん……ろーず……? 」
軽く頷いて、赤く染まった頬へと口付けを落とす
朱色の髪は癖っ毛があり、エルフのような耳は上に向かって生え、顔立ちはやんちゃそうだが美しい顔立ちをしている
次に真ん中の子へと視線を向け、藍色のストレートの髪をした頭へと手を置き撫でる
三人の中で一番きりっとした目元をして、耳は真っ直ぐ横にある、イケメン君だ
『 藍色…御前は、ルピナス。 ルピナスの花言葉はいつも幸せ、私の安らぎとかある。御前は一番大人しそうだが…美形になりそうだから、その名をやろう 』
「 るぴ、なす…… 」
『 嗚呼、そうだ。可愛い名だ 』
いつか格好よく成長した時に、ルピナスと呼ばれて可憐に笑う姿は想像つく
軽く撫でて微笑めば、目線を三人目へと向け耳元へと触れる
『 そして、深緑色……御前はバニラ。バニラの花は一日しか咲かないのにその匂いがずっと残るほどに印象がある。永久不滅と言う花言葉と共に……御前をバニラと呼ぶ 』
「 ばにら…… 」
大人しそうな印象だが、柔らかな顔立ちと大人の美貌すら持ち合わせてる……
耳が下がった位置にあり、僅にタレ目の目元に触れ額へと口付けを落としそれぞれをもう一度見る
『 ローズ、ルピナス、バニラ。御前達は大切な働き蜂だ。互いに助け合って生きてくれ。そして、俺の御飯にならないよう、死ぬんじゃないぞ 』
「「 うん! 」」
数多い働き蜂に名をつける事を今までの女王蜂はしなかった
それが俺との違いだろ、そして人間と魔物との差だ
人は、区別をするために名をつける
『 ブラオン。次の子が蜘蛛でも蠍でもいい。だから……子を殺すことは考えないでくれ。俺も浅はかに毛嫌いしたが……その分、仲良くなれる努力はするから、許してはくれないか? 』
「 …………アンタには、敵わないな 」
蜘蛛が苦手でも子供の為に、慣れる努力はする
似てないことは、まだ気にする面はあるが
それでも……子供だと思えば全てが許せてしまうほどに、俺は彼等に甘くなっているな
「 ならば……次の子を宿そう……。どんな子が生まれても知らんぞ 」
『 いいさ。きっとコイツ等みたいに可愛いから 』
「 ふっ、そうか 」
自身の腹に触れたブラオンは、残っている卵子を使って次の子を孕んでくれるようだ
複雑だが、今は素直に嬉しいよ
『 ルビー。まだ小さいんだから手加減してやれよ? 』
「 うん!ボクはお兄ちゃんだよ!ローズ、ルピナス、バニラ。崇めるんだよ! 」
「「 はい! 」」
『( まぁ、いいか )』
やっぱりルビーの家来を作る計画は終わってないが、楽しそうだから許せた
さて……次はあの勇者か……
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