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三十八話 神の落とし子
ブラオンの一件が終わり、流石にその日は休んだと言うかチビッ子達と遊んでは、あの勇者を忘れていた
「 ちょっと、嬉しかった 」
『 なにがだ? 』
三日後、流石にそろそろ静かになっただろうと思って地下牢に行きながら、アランとネイビーを連れて、というか護衛でついてきていた
黙っていたアランは口を開き、その言葉に一瞬なんの事か?と思っていれば、ネイビーは言葉を付け足す
「 どんな姿をした子でも、我が子と言う御前に惚れ直した 」
『 あ?あぁ…… 』
「 うん、俺達は嬉しかったよ 」
そう言えば居たな
あの時はブラオンやチビッ子に構ってて、いつの間にか立ち去っていた彼等の存在には、気にしてなかったから記憶に薄いが…
話を聞いてたことを改めて知れば、なんとなく恥ずかしくなる
『 本音だよ。嫌いと言えないほどに……我が子は可愛い。ルビーやルアナもな? 』
「 俺だけ卵じゃなかったことに衝撃的で落ち込んでたけど、ルイのお陰でルアナともっと仲良くなれるよ 」
『 ならいいが…… 』
卵と聞いてたのに、産んだら馬でした
なんて確かに驚くものだ
自分の尻の穴から、なんて考えたらビックリして子供かどうか悩むが、痛みを得て、そして行為をした人すら簡単に特定できるなら、それは我が子に違いない
「 それに今のところ、御前の子は全員…人の姿になれるみたいだからな?それもまた、珍しい 」
『 えっ?パールはまだ……わっ! 』
「 ルイサマー! 」
ネイビーの言葉に傾げていれば、尻辺りに抱きついていた感覚に驚いて、振り返り自身の羽で見えず
体を動かして尻尾で体を掴み、自分の横へと来させればミニになったハクがそこにいた
『 えっ、ハク? 』
「 んん! 」
「 あ、パール!驚かせようと思っていたのに…… 」
『 えっ……このミニハクは……パールなのか? 』
掛け走ってきたハクの青年の姿を見ては、彼は俺達の元に来るなり、パールの手を引きその肩に触れた
「 えぇ、人の姿を練習させていました 」
『 ふぁ……えー……可愛い…… 』
真顔になってしまうほどに、パールは可愛かった
ミニチュアハクなんてレア!!と思うほどきよく似て、背中を見れば確かに腰辺りの服は捲り上がり白い羽が生えている
「 確かに可愛い……なんだろ。お人形さんみたい 」
『 だよな!俺もそう思ってた。人形みたいで可愛い。あ、人形って例えるだけで大人しくしろーとか言うこと聞けって意味じゃないからな? 』
「 そう否定しなくとも。パールはよくご存じですよ。貴方の事は、子供の方がよく察しますので 」
アランの言葉に同意をしたが、直ぐに否定すればハクは笑みを向け
パールから手を離せば、小さな彼はにこやかに笑って俺の太股へと抱き締めてきた
「 ルイサマー、だいすきです! 」
『 ルイ様は気に入らないが、ハクが言うから仕方無いか……。あぁ、俺もパール大好きだよ 』
「 へへっ! 」
俺を好いてくれる家族がいるなら、此所も悪くないな
「 パールにぃちゃん!あそぼー! 」
「 にいちゃん! 」
「 ほらほら! 」
「 あ、あそびます!! 」
走る足音に視線をやれば、そこには三兄弟がパールを遊びに誘いに来た
そして、その横にはルミネもペガサスの姿でいれば、俺は片手を振る
『 気をつけて遊べよ 』
「「 うん/はい!! 」」
キャッキャッと騒がしい子供の声が廊下に響き、子供達は好きに遊びにいくその後ろ姿は微笑ましい
「 随分と騒がしくなってきましたね 」
「 子供っていいよねー。ほんと可愛い 」
「 嗚呼、遊びながら様々な事を学ぶ時期だからな…… 」
三人のパパ友みたいな会話に、少し吹き出して笑えば背を向け歩き出す
『 御前等は、出逢ったときよりずっと柔らかくなったよな 』
「「 ?? 」」
『 さて、勇者君に会いに行くかな 』
いくつもの疑問符を浮かべるが、俺には分かる
子供をみている瞳は、出会った当時より柔らかいものがある
産んだ後は放置、何て言ってたが…
よく遊んでるし、物事だって優しく教えている
時には怒ってるのもみてるが必要な程度だから、彼等の子育ては上手いと思うほどに、子供を見てる
きっと出会った当時なら、その内大きくなるって言ってるだけなんだろうな
二年の月日がそろそろ経つが、早いようで懐かしくも感じる
『( まぁ、これから更に生きると考えると先は長いけどな )』
ハクは保護者として子供達の後を追いかけ、
アランとネイビーと共に地下牢へと向かった
『 ……随分と大人しいな? 』
「 何も食わせていないからな。腹が減れば大人しくなるだろ 」
『 ……そういうもんか 』
相変わらず薄暗くて湿った匂いがする地下牢
あの勇者がいる牢の前に来たのだが、本人は鎖で繋がれたまま座り込んでるし、威勢が何処に消えたのか不思議なぐらい無口で大人しい
血の匂いがしない為に、怪我はさせてないようだ
利口な雄達だと改めて思いながら勇者へと視線を向けたまま問い掛ける
『 御前、名前は? 』
「 ジャック 」
『 なんでアランが答えてんだよ 』
秒で答えたのは隣に立ってるアランで、名前を発した位置が違った為に、彼を見れば当たり前のように答えられた
「 だって名乗ってたから、神の落とし子やらなんやら言ってたじゃん 」
『 そうだっけ?顔にインパクト有りすぎて忘れてた 』
「 凄く、分かるけどね 」
勇者が俺達に似ていた
その事で印象深くて、他の事に意識を向けれなかったが、そう…ジャックだったな
『 だろ?それで、ジャック……御前が神の落とし子ってどう言うことだ? 』
勇者の名前が分かった為に、改めて気になる点から質問すれば、ジャックは鎖の音を動かし言葉を発しようとした
けれど、それをネイビーの言葉で掻き消される
「 約二年前に、教会の前に捨てられていた生まれてまもない赤子だったらしい。誰の子かは分からないが…神父はその姿を見て“ 神の落とし子 “と呼んだ 」
『 その姿って? 』
「 ……御前はまだ区別が分からないか、この勇者…人間じゃないぞ 」
『 へっ? 』
御前はまだ、って悪いな!寧ろこの世界の人間ですら、まともに見てなかったから勇者=人間かと思ってたよ!
というか、二年後に生まれたてで発見されたのにこの十八歳前後の姿なら、確かに人間じゃないな
成長速度が速すぎる……
「 よく偵察に行くからそんな噂話はよく耳にするが、実際出会えばその魔力で分かる。人間は限りなく薄くゼロに近いからな 」
「 俺も最初はまさかねーって思ったよ?でも、勇者って人間ではない確率の方が高いらしいんだよ。天使や魔物の方が人間より身体能力優れてるからね 」
『 へぇ……じゃ、人間じゃないのか?御前、天使か?それとも魔物か? 』
勇者として期待され、けれど魔物となれば裏切り者とされる
あぁ、魔物では無いな……と実例が横にいることに気付き、それなら天使か?と前者の方が可能性が高いことが分かれば彼は、俯いていた顔を横へと向けた
「 ……どうせ見たじゃん。言う必要ないよな 」
『 見たってどう言うことだよ 』
「「 一度全部脱がせた 」」
『 魔力感知はどうした!? 』
なんか大人しいのってふてくしてるからなのか!!
思春期の男の子を身ぐるみ剥いでどうすんだよ!
お婿に行けない!とか騒がれても知らんぞ
魔力感知で分かったのかと思って、ちょっと格好いいな、とか内心思ったけど見たなら話は別だ!
かっこよくねぇよ!
「 他に武器を持ってたらダメでしょ?だから、脱がせて……あー、なるほどー……って 」
「 だから拷問するのを止めたんだ。下手に傷付けて仲間を呼ばれたら不味いからな……だが、その様子なら気にすることもなかったか 」
『 二人して分かってるのが腹が立つ、教えろよー 』
もうジャックから聞くのは諦めて、よく知ってるネイビー達から答えが知りたくて、彼等に顔を向ければ
ネイビーは片手を上げ、魔物の言葉で長ったらしい魔法を唱え始め、ジャックの下に紫色の魔方陣が現れた
「 なら、見せてやろう。神の落とし子と呼ばれる……本当の姿を…… 」
「 っ!!ぐっ、ああぁぁあ!!! 」
『 なっ!? 』
魔方陣は光り、それと同時に電流のような音が聞こえ
ジャックは声を上げ悶え苦しみ始め、その事に驚いて止めようとすればアランは片手で俺の手首を掴んだ
「 見てて……これが、彼の本当の姿だから 」
ここまでする必要があるのか…
知りたいと思ったことで彼が苦しむ姿を見るとは思わずに、少し後悔をしていれば
鎖の激しく動く音と共に、羽の羽ばたく音が聞こえ、ジャックの姿を見れば目を見開き、息を飲んだ
人の姿は消え去り、手足は徐々に獣の姿へと変わり
真っ白で四枚ある梟のような羽、長い馬のような尻尾、そして顔は美しい白い犬の顔をしていた
まるで神使と言えるほどに神々しい姿をした獣は、呼吸を荒くしながら低く唸り声を上げる
『 わ……ハクみたい 』
「 感想そこ?確かに似てるけど、コイツは堕天使だよ? 」
『 だてんし……堕天使!? 』
「 天界ではなく、人間界…つまり地上にいる時点で堕天使だ。神の落とし子ではない。堕落したやつだ 」
美しくも勇者の少年は、俺やアランと同じく“ 二年前 “に堕天したらしい
これは、運命か……それとも必然なのか
彼との出会いは、なんとなく奇遇とは思えなかった
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