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エピローグ ~ アラン視点 ~
俺を追放することはどこか予測は出来ていた
ルイの事だから、きっと自分を傷付けて俺を守ろうとするんじゃないかって
だから、追放する、そう告げたときに本気で嫌がることは出来なかった
ルイの思いに答えたくて、俺は人間界に戻る選択肢をした
けれど、俺の肉体と魂が人間界に戻ると言うことは
つまり …“死ぬ前に戻る“ってことになる
身体の痛みと共に目を覚ませば、目の前には人込みと赤い血に青ざめた
「( そんな……こんなの、あんまりだよ…… )」
ルイが死ぬ瞬間をもう一度見るなんて思わないし、俺の身体も動かなかった
身体中痛くて、意識が飛びそうだった
「 おい、こっちの青年は生きてるぞ!早く、早く救急車を呼ぶんだ! 」
「 おいっ、しっかりしろ!! 」
俺の意識はそこで途切れた
肉体と魂が此方に戻ってくる代償に、俺は人間界で最も大切な者を失った
「 っ…… 」
「 ヴォルフさん。目を覚ましたばかりで申し訳無いのだが……御伝えする事があります 」
ルイの身体と魂は、この世界にない
なんて…寂しくて辛いんだ……
魔界にあることを知っていても、この人間界では無いんだ
生きてない……その事を告げられる事は耳を塞ぎたくないほどに辛かった
涙を堪えて、座り込んだまま俯いて一つ聞く準備が出来たと頷けば、医師はゆっくりと告げた
「 落ち着いて聞いて下さい……亡くなった、黒鋼ルイさんのお腹には……生後一ヶ月のお子さんがいました 」
「 えっ……? 」
聞いた瞬間、俺の時間は止まったと思うほどに衝撃的だった
今なんて……?ルイの、お腹に……子供?
「 そんな……子供、なんて……!!いっ……ゴホッ……ゴホッ! 」
「 落ち着いて下さい!貴方は重傷なんですよ! 」
頭蓋骨にヒビは入り、肋骨は八本折れ、手足の骨は複雑骨折をしていた為に十二時間の手術をしたと言う
奇跡的に神経に異常はない為に、治れば動くと言うがそんな事より、子供が居たことにショックで立ち直れそうにない
「 ……ルイに、子供って……そんなの、しらなかった…… 」
「 生後一ヶ月、謂わば四週間程度では悪阻もまだ酷くは無いでしょう。少し熱っぽいとか、気だるいと思う人もいますが……初めてのお子さんなら、風邪気味と思う程度かと……残念ですが…… 」
母体ともに死亡した
その言葉は、俺にとってはルイの優しさを受け取るより胸に突き刺さる
涙を流し、最愛の彼女とその子を失った事で俺は肉体より心を壊し、予定より二週間長く入院した
入院中に、ルイの母親のみが葬儀を行ったらしいけど、火葬して骨を家に保管する程度
まともな葬儀も無ければ墓もない
仕方無いと分かっていても、寂しいと思う
「 アランくん、ゆっくりしていってね 」
「 はい、お邪魔します 」
退院後、ルイの実家へと行った
やっと足を運べた事に、自分でも驚くほど時間がかかったと思う
ルイの遺骨がある部屋に通され、写真やら飾られてる前へと腰を降ろし、目を向ける
「 変だよね……君は魔界でサタンなんてやってるだろうのに……こっちではいないんだよ……。あの日……俺だけ、生きてることになったんだよ…… 」
残された者の辛さを、こんな形で知るとは思わなかった
ルイの優しさのはずなのに、あの場で止まって居た方がマシだと思うぐらい
涙は止まらず、その場で声を殺し泣いていた
「 っ……ルイ、あの日に……俺も死んで……同じ場所に堕落……。堕落……? 」
ふっと泣いていた俺は、堕落した日を思い出した
それと同時に、重なる共通点はまるで糸のように繋がっていく
“ 二年前に教会の前に捨てられた “
“ 誰の子かは分からないし。成長早いから悪魔だとは思ってたけど…… “
“ 俺ってサタンの子だったらしい。だから運動神経も良かったのかも。それに、元々魔物の血があるから堕天したんだ “
「 そんな……まさか、ね…… 」
“ ルイさんのお腹には、お子さんがいました “
気付いた時には、俺は不器用に笑ってからその場を離れ走っていた
「 アランくん!? 」
「 ごめん!また来ます!!( もし、そうなら……本当にそうなら、もう一度ルイに会える! )」
0.01%確率でも、俺はルイに会うためならどんなことだってする
痛む身体に鞭を打って、車を運転して向かった先は交通事故をしたあの場所だ
此処からそんな離れて無いために直ぐに辿り着いて、車を置いた俺はその道路を見た
花束は置かれ、ルイの好きなものや、お腹の子が死んだことを知った人達が置いていった子供用品
そして、運転手の彼等に贈る物
それ等を見てから、ルイの血痕が残る場所へと立ち片手で触れる
「 俺の距離はあそこ、そして……ルイと子供はそこ。やっぱり……そうだよ、あの子は……あの子はそうだったんだ! 」
だから他人のようには思えなかったし、助けたいと思った
鈍感なルイはきっと気付いてないかも知れないけど、彼自身は気付いていたんだと思う
お腹の子は、母親の心音や声を聞くから……
“ ……っ、あれ……あの、女王は? “
“ 目が覚めた?仕事をしてるよ。それがどうしたの? “
“ ……別に、ただ……ボクを呼ぶ、声が聞こえた気がした “
あの子はルイを殺さないと何処かで確信した
だから、もう一度寝たのをいいことに俺の羽を渡していた
ルイを助けてくれると信じたから……
「 死んだら、堕天するなら……もう一度、死ぬことぐらい怖くないよ。君に会って、連れ戻す為ならね…… 」
ゆっくりと地面から手を離し、赤信号が青へと変わる瞬間に、俺は前へと脚を踏み込んだ
ルイと同じ場所で事故死をして、そして…二年前に見たあの日のように、落ちていた
ルイに会うことだけを考えた俺は、前より簡単に魔王になれた
それから侵入してからジャックを掴まえて、
ざっと説明すれば、彼は笑っていた
「 やっぱり、そうだと思っていたよ。ボク達、似すぎだもん 」
「 嫌じゃ無かったら、母さんを助けるの協力してね? 」
「 いいよ。そう言うことなら、手を貸すよ 」
君を捨てたわけじゃない、そう知ったジャックは何より安堵したように嬉しそうに笑っていた
俺達なら捨てるなんてきっとしなかった
知っていたなら、今の子供達のように大切に育てていただろう
「 でも、ジャック……もし成功しても、君には記憶がないかも 」
「 それでもいいよ。もう一度二人に会えるならね。ついでに弟か妹も産んでくれると嬉しいよ 」
「 ふふっ、分かったよ 」
ジャックにはきっと記憶はない
それでも、彼は自分の母親であるルイが人間界で生きる事を優先した
俺よりいい男になれるね、なんて思って笑ってから作戦の為に離れた
俺の予測通りに、人間界に戻ったとき…
奇跡的に生還した、と言うことになっていた
二度死んで、二度あの痛みを味わったけれど
それでも…ルイが人間界に戻ってきた事に嬉しかった
先に歩けた俺は、ルイの病室へ向かった
「 どう、目が覚めた? 」
『 あ…… 』
驚いてる様子に笑みは零れ、横へと近付き
身体中に包帯を巻いたルイは、俺を見てから何か言いたげな様子に、先に俺から告げた
「 おかえり、瑠衣 」
『 っ……ただいま、アラン!! 』
人間界に戻ってこれたね
やっと、やっと来れたんだからもう離れる気も死ぬ気もない
何度も喧嘩しても、此からもずっと一緒にいようと笑い合う
「 おや、ヴォルフさんもいらっしゃいましたか。丁度いい、御伝えしたいことがありました 」
『 ん? 』
「 多分……いい知らせだよね? 」
「 はい、いい知らせですよ 」
最初に見た医者の悲しげな顔とは違って
今は嬉しそうに微笑んでいた
その様子に知っている俺はベッドに腰を降ろし、
ルイの片手を握れば、二人で医師の報告を聞く
「 黒鋼さん。奇跡的にお腹の子もご無事ですよ 」
『 えっ? 』
「 おめでとうございます。生後四週間程度のお子さんがいます 」
『 そんな……っ、ほんと……? 』
「 うん、ほんと。気付かなかった? 」
『 全く……っ……アラン!! 』
「 ふふっ、産んでくれる? 」
勿論と泣き付きながら頷いたルイに、俺と医師は微笑んでいた
優しく抱き締めて頭を撫でていれば、ルイは嬉しそうに笑ってから自分のお腹を撫でていた
それから直ぐに、俺達は人間界が変わってることに気付いた
「 貴方!!また、借金なんて増やして!! 」
「 いった、仕方無いだろー?パチンコが俺を呼んでて 」
「 なわけあるか!! 」
最初に驚いたのは、退院して直ぐにルイの家にサタン……ではなくルカが生きていたこと
そして、ルイに年齢が離れた弟が生まれること
それに…彼等に記憶は無いにしろ、俺達は他の人物にも驚きが隠せなかった
「 そうカリカリするなよ、父さんが借金をつくって帰ってくるのはいつものことだろ? 」
「 そうですよ。おや、ルイ。それにアランくん。お帰りなさい 」
『 うそ……ネイビーと……ハク? 』
「 誰の事をいってんだ?自分の兄貴の名前も忘れたのか 」
「 やっぱり事故をして頭を打ったのですね。安心してください。このお兄ちゃんが記憶が戻るまで手取り足取り御世話をいたしますよ 」
「『 待って 』」
他の部屋から何事もなく出てきた、黒髪に深い青色の瞳をした青年はあのネイビーそのもので、色素の抜けた銀髪をした青年もハクだった
けれど彼等は俺達の事を、自分の妹と、その彼氏程度にしか思ってないことに驚き
ルイは、俺の腕を掴み後ろを向いた
『 父さん……もしかしたら他の女の人と子供作ってて、その子は何かのきっかけで死んでたのかも 』
「 えっ、じゃぁ……“ 俺と我が家族達の魔力と引き換えに “って言ったから……家族が戻ってきたってこと? 」
『 そうなるのか…… 』
チラッと後ろを振り向けば、当たり前のように存在する彼等に俺達は唖然となってから笑い合った
『 そうみたい!ねぇ、名前なんだっけ? 』
「 俺は四男の紺空(そら)。IT企業の社員だ 」
「 私は長男の銀(ぎん)。弁護士をしています。次男の紅(こう)は… 」
「 確か、自衛隊にいなかったか?それで、三男の魁(かい)は……歌手だったな 」
「 あの子は騒がしいですからね 」
つまり、纏めれば……
長男 銀(ギン/ハク) 弁護士 35歳
次男 紅(コウ/ブラオン) 陸軍 自衛隊 33歳
三男 魁(カイ/ロッサ) 歌手 30歳
四男 紺空(ソラ/ネイビー) IT企業の社員 28歳
長女? 瑠衣(ルイ) フリーター 27歳
五男?次女? これから生まれる
ってことになるんだね……
随分と、死んだもの達が生きてるじゃないか
そう呟いたルイの言葉に頷く
死んだから魔界にいるんだから
死んでなかったら此処にいるってことかな?
それなら、腹にいる子も…魔界にいたのには納得できるよ
『 まぁ、なんとなく……わかった。けど、子はいるのか? 』
「「 もちろん 」」
ネイビーとハク、じゃなくて紺空と銀は御互いに二人の子供がいると頷いた
それはまるで、ルビーやパールのようだね
向こうで産んだ子は、この世界で死んだ子が転生したから
魔界も人間界も存在したんだ
良くできた、世界だね
『 なら俺も頑張るかなー、きっと男の子だろうなぁ~ 』
「 俺?まぁ、男の遺伝子強い家系だからな 」
「 此ばかりは仕方ありませんね……男性ホルモンが強いんですよ 」
「 それってつまり。先に彼女とかをイカせた後に、男が射精してるって事になるよね。だって、男の子の遺伝子は酸に弱いから、女がイカないとそれが薄くならないからね。なーんて 」
あはっと笑った俺に、何故か全員の顔が赤く染まった
やっぱり愛してる相手を先にイカせたいのは分かるよね
『 ふっ、じゃ……男で決まりだな 』
「 そうだね。ルイ、結婚しよう? 」
『 嗚呼、喜んで 』
サラッと告げた俺に、ルイは当たり前のように頷いたが、妹大好きみたいな二人は少し驚いてから文句を言っていた
妹に手を出したとか、そんなの魔界の君達に言いたいほど色々やらかしちゃってるから、俺の事は目を閉じてほしいよ
なんて、言ってもきっと分からないだろうね
魔界、それは地獄みたいなもの……
そんなところに行った記憶がある方が可笑しいんだからさ
「 ジャック……は、現世じゃ可笑しいかな。なら……なにしよう? 」
『 ジャックがいい。俺はヴォルフ家に嫁いだんだからな 』
「 ふっ、そっか。うん、そうだね! 」
家族や友達が沢山来た、大きな結婚式を挙げ
そして十ヶ月になった頃に瑠衣は男の子を産んだ
元気いっぱいの男の子には、誰もが驚くほどに
その肩には小さな羽のアザがあったのだから
まるで“ 神の愛し子 “なんて呼ばれる子は、
賢く、父親である俺の跡を継ぐ為に勉強をし医師を目指し
二人目に生まれた女の子は、ルアナと名付け
優しく愛らしい女の子へと成長していた
「 瑠衣ー!お小遣いちょうだい!! 」
「 くださーい! 」
『 ルビー、パール……じゃなくて……赤司(あかし)と狛(ハク)……御前等……毎回、金を求めるならアランに行け!アランに!! 』
「 えっ、俺?いいけど…… 」
「「 やったー! 」」
瑠衣は時々名前を間違えるけど、仕方無い
だって……魔界の姿と瓜二つなんだから
いつまでも、似てる
それに…魔界からこっちに来るときに全員の魔力を削ぎとって来ちゃったから
俺達の寿命は普通の人と変わらない
百歳まで生きれるか分からないけど、
十分なほどに皆、長生きするだろうね
いつまでも幸せに笑ってるのだからさ
~ アラン視点 完結 ~
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