番外編 ~ シヴァ視点 ~

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番外編 ~ シヴァ視点 ~

仕事場の上司であり、中学生の頃からの先輩であった黒鋼紺空(クロガネ ソラ)は大の妹好きなのは、誰もが知る噂であり事実 けれど、その顔を見た者は居なくて写メを見せて欲しいと言っても、勿体無いやら、御前等には見せたくないの一点張り それが急になんだ、俺が結婚してから態度が変わったように見せてくれると言っていた 「 ほら、此が俺の可愛い妹だ 」 「 仕事中なんですけど…… 」 いや、実際には結婚した者には見せることを許可してると言った方がいいのか 独身の頃には、その気にさせるような言葉ばかり言ってたのに見せてくれなかったのが嘘のように 今では、見せてくれるなんて…… 「 でも、有り難く見せて貰います 」 「 きっと御前の嫁より可愛いだろうなぁ~ 」 「 そんなわけ……えっ…… 」 向けられたスマホの画面を見れば、その容姿に一瞬固まり驚いた 写メは、幼い赤子を抱く黒髪に色素の薄い茶系の目をした女性だが その優しげに微笑む様子は、いつか夢で見た女性に似ていた 「 本当に……ソラ先輩の妹ですか? 」 「 当たり前だろ。妻より可愛い我が妹さ 」 「 妻よりって…… 」 認めてはいけないけど、確かに自分の妻より可愛い 年齢差が有るからそう見えるかも知れないけど 人間離れした容姿は、美貌と言えるほどに美しい 可愛いって言う言葉では纏めれない程に、綺麗な部分も兼ね備えていた 何処か美形に見えて中性的な顔立ちに、短髪は良く似合う 「( 夢の中の人、なんて……有り得ないですよね…… )」 きっと何かの勘違い そう思ってから、簡単に話しを終え仕事へと集中した その日の帰り道、残業もなく早く切り終り いつもの通る道を歩いていればふっと目についた古本屋へと脚を止めた 「 こんなところに本屋……たまにはいいか 」 特に買うものも無いけど、早めに帰った日に読める本でも有ればいい そう思い中へと入り、埃被った本を見ていく 背表紙を読み、案外数多い中でふっと目についた黒く分厚い本を見掛け、それを手に取った 「 ……女王蜂転生? 」 虫の生態のようで、違うお伽噺 誰が書いたか分からない、空白の部分が多い人物像に疑問を覚え ページを捲れば、それは女王蜂転生とは書いてあるものの、魔界の内容だった サタンが連れてきた人間の話から始まる物語 「 随分と気に入ったようじゃな? 」 「 あ、その……これ下さい 」 「 ふむ、持っていきなさい 」 「 いいんですか? 」 年寄りの老人は此所の店の人だろう 持っていっていいと言われても、無償で貰うのは気が引く 「 本は読み手を選ぶ。その本を御主が見付けたのなら、その本は御主に読まれたいのだろう。古くボロい本でよければ持っていくといい 」 「 ……本は読み手を選ぶ……ありがとうございます。これ、読ませていただきますね。あ、お気持ちですが! 」 気持ちだけ受け取って欲しくて財布から札を出し、その辺りに置いてから本を持ち家へと帰った 直ぐに家であるマンションへと戻り、スーツを脱ぐことを忘れ、ソファーに座り本の続きへと目を通す 内容は魔物達は、性欲の飢えを抑えるために、我先にとやって来た人間に様々な手段を使った振り向かせ、人間は一番上手く誘惑できた者から相手にすると言う、R18指定になりそうな内容だった だが、実際の内容はそんなエロい感じではなく 人間と魔物、互いの気持ちの差を描いた立場の違い それに、人間が愛した者に関することまで書かれていた 「 まるで、俺の夢と同じだ…… 」 この本が気に入り、読みたいと思ったのは 何度も俺が見た 夢と同じだったこと それも、夢を見始めたのは電車のホームで突き落とされたあの日の夜を境に見ていた 突き落とされた後、電車が来る前にホームに戻れて助かったけれど 本当に後少し遅れればグシャグシャになっていても可笑しくは無かった 誰かに助けられた……その事が気にかかって考えていれば 夢で見た、黒髪に赤い目をした若い青年であり、俺の名を呼んでいた “ …………。花をありがとう “ 萎れた花を嬉しそうに受け取ったあの表情を、忘れるはずがない 仕事疲れと、読みなれない本を見て寝落ちしていた俺は、あの夢を見ていた “ 全ては過去の話だ。此れからは、サタンとして…女王蜂として、この国の為に必要な…………と過ごすんだ。…………のように…… “ “ それは貴方の意思ですか?本心ですか?…………と貴方は違うのに…何故、抗わないですか! “ 何故、止めるんだろう…… 自分には止める必要も、権利もないのに あの花を渡した時のような笑顔ではないことに、 胸が苦しくて止めようと必死な俺がいた こんなにも必死になったり、声を張るような性格でもないのに この時だけは、全てを向けて止めようとしていたんだと思う 最後に僅かに振り向いた彼の横顔に、俺は見ていた “ ありがとう、 ………… “ 「 はっ!! 」 目を覚ました時には冷や汗をかいて、本は途中で止まっていた 「 夢、か……そう言えばこれは、最後はどうなってるんだ……? 」 途中までしか読んでなかった事を思い出して、内容を飛ばして最後のページを見れば そこは何枚捲っても白紙だった 「 ん? 」 可笑しい、あとがきも無ければ後々の話がないと巻き戻せば、有るのは彼と別れた後まで それ以降は白紙だった そして、唯一最後に書かれてるのは誰に宛てた分からないほど、殴り字で書いてあった 「 この先は、君次第?なんだそれ…… 」 終わりを想像したり、書けって事なんだろうか 随分と中途半端だと呆れれば、本を閉じてから朝風呂へと入った 「 ……やばい、遅刻だ!! 」 「 えっ?貴方、今日は…… 」 「 行ってくる! 」 風呂から上がりふっと時計を見れば遅刻する時間だと気付き、鞄を持ちスーツを着替え部屋を飛び出した 本は鞄の中に入っている 走るなんて滅多に無く、人の家の塀を飛び越え、庭を突っ切り、駅の方まで走っていれば 目についた時計に気付く 「 まて、今日は……土曜日じゃね……?やらかした…… 」 寝落ちして感覚が狂ったけど、今日は土曜日だった 仕事に行く必要も、こんなに焦る必要もないことに呆れる きっと妻も飛び出した俺に驚いただろうな 何をしてるんだと呆れながら、帰り道は普通の道を通っていれば、鼻にがする植物の匂いに視線を向け 其処に見た人物に、脚を止めた 「 何をお探しかい? 」 『 ハナミヅキを……って流石に木はない、ですよね 』 「 切り花ならあるが、今は木はないかな。すまないね 」 『 いえいえ、ありがとうございます 』 その声を知っている、後ろ姿も…… そんな……会えるとは思えず そして…心の何処かで懐かしさを感じて、自然と声をかけていた 「 あの…… 」 『 ん?はい?あ…… 』 振り返った彼、ではなく彼女はやっぱり俺が夢で見た青年と瓜二つだった こんな事が有るのだろうかと不思議に思うも、彼女は俺を見てから優しく微笑んだ 『 花が御好きなんですか? 』 「 えっ?あ、はい……少しだけですか…… 」 『 俺と同じですね。俺も好きです 』 珍しい…女性が“ 俺 “と使う一人称に、夢の中の人と重なる きっと違うのにそうじゃないか、という確信もあった 名前も知らない女性なのに、懐かしく思えるのは何故だろうか 「 ハナミヅキ……でしたら、季節が違うかと 」 『 えっ?そうでしたっけ?あちゃ……季節感ゼロだから間違えました 』 「 ふっ、そう言うときも有りますよね 」 可笑しな人だ 花か好きだといって、特定の花を探してるのに咲いてる季節を知らないなんて ハナミヅキが咲く、四月から五月の間に花見でも出来たらいいな 「 あの、宜しければ…… 」 『 ん? 』 初対面の相手に、そういった誘いをするのは可笑しいけれど我慢なんて出来ず問い掛けていた 「 ハナミヅキが咲く来年、お花見をしませんか? 」 『 えっ? 』 「 あ、無理にとは、言いません! 」 俺は何を言ってるんだろう、初対面なのに…… ナンパした事を嫁にでも見られたら終わると思って焦っていれば、花屋の中から出てきた人物と目があった 「 瑠衣、待たせたな……って……一輝(いつき)…なんで、休みの日にスーツってか……何で此処にいんだ? 」 「 せ、先輩!?あ……その、日付感覚狂ってて 」 『 えっ、お兄ちゃんの後輩?ってことは仕事場同じ!? 』 お兄ちゃんってことは……あの写メでみた妹!? 子供を抱っこしてたから印象が違いすぎて分からなかったけど、流石に殺される 嫌な汗をかく俺に、二人は話をする 「 嗚呼、中学から後輩の佐々木一輝。優秀な後輩だから役に立つ 」 『 役に立つって言い方が……まぁ、いいや。そっか、君は後輩か……。俺は瑠衣、改めて宜しくね 』 「 るい……さん……宜しくお願いします 」 片手を出した瑠衣さんに、自然と手を取り握手をすれば まるで、記憶が甦るように鮮明に夢の内容を思い出した 目を見開いた俺に、彼女は何かに気付いたように手を離し話しを逸らした 『 あ、来年さ。家族や知り合い呼んで花見しよう。ハナミヅキとかサクラがみたい! 』 「 御前が言うならいいな。一輝も来るだろ? 」 「 休みが合えばもちろん…… 」 『 土日にしよう!よーし、今から来年が楽しみだ! 』 俺が最後に見た、悲しげな顔とは違っていた 楽しそうに笑って両手を広げる姿は、花を渡した時のようで、夢の青年に似ていた いや、きっと夢じゃないんだ…… 俺の知らない、魂に刻み込まれた記憶なんだと何処か確信があった 「 瑠衣ー!帰るよ!お兄さんもほら~ 」 『 はーい! 』 「 嗚呼、今行く。それじゃ一輝……また仕事場でな 」 近くの幼稚園に子供を送ったのだろうか 金髪に青い目をした青年が手を振れば、それに合わせて二人は歩き出せば、俺は止めていた 「 あ、あの……先輩! 」 「 なんだ? 」 「 その……この辺りに住んでるですか? 」 「 ん?あぁ、家族が増えたから家を建てた。気が向いたら遊びに来い。いつでも歓迎する 」 『 新居だから広いよー。お嫁さん連れて来なよ!それじゃ 』 まぁ、俺は旦那の家だけど、なんて笑っていた彼女はきっと頻繁に家に帰るからこの辺りにいるんだろうと思った 住所はメールで教えてくれるらしく、俺は素直に手を振れた 「 なんだ……幸せに笑ってるなら、それだけで十分です 」 俺の知る笑顔よりもっと綺麗で可愛い 心から今を楽しんでる表情が見れば満足して、三人が帰っていく後ろ姿を眺めてから家に帰った ふっと、鞄を開きあの本を探ってもそこにはなくて きっと、次に必要な人へと行ったのだと思った 「 一輝、随分と楽しそうだけど何かあった? 」 「 そうだな……初恋の人に出逢ったかな。勿論、清々しく挨拶したぐらい 」 「 ふふっ、良かったね。初恋はいい経験と言うもの 」 「 嗚呼 」 初恋は実らないという けれど、きっと今の妻と出会うために会っていたんだと思うと幸せだと思う あの本に完結を書くなら、きっと其々の幸せな風景を画いて終わるだろうな どんなに悲しくとも、最後は誰もが幸せになってるんだから…… 「( ルイ様……貴方の笑顔が見れて、良かった )」 ~ シヴァ視点 完結 ~
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