61人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
3
翌日、月曜日の昼休みに生徒会室へ顔を出すと、デスクの上に突っ伏して、達哉が眠っていた。
珍しいこともあるものだと目を丸くしつつ、忍は達哉を起こさないよう、少し離れた席に座る。
忍は、クラスメイトから預かってきた申請文を達哉に手渡しに来たのだが……声をかけて揺り起こすのは、どうもためらわれた。
きっと疲れているのだろう。この一年でずいぶん改善された気はするが、達哉はもともと、あまり人を頼らず、何でも自分でこなそうとする傾向がある。
おそらく、自分でやった方が正確だという思いがあるのだろうが……他人に荷物を任せることが、ひどく下手なのだ。一年近く一緒に仕事をしてきて、忍は達哉の不器用さに気づいていた。
「……資料の清書ぐらい、俺にやらせればいいんだ」
達哉が薄く目を開けたのを見計らって、忍はそんな声をかけた。ぼんやりとした視線をさまよわせて、達哉は上体を起こす。
「あ……れ。オレ……寝てた、か?」
「寝てたよ。高いびき、みんなに聞かせてやりたかった」
「……今、何時だ?」
「三時半」
ウソだろう、と達哉は血相を変えた。自分が生徒会室に来たのは、昼休みが始まった直後だ。まさか三時間以上も寝ていたはずは、と壁の時計を仰いで、ようやく忍の嘘に気づく。
「冗談だよ。……まだ、一時まえ。……ちゃんと昼、食ったのか?」
くすくすと笑いながら、忍は持っていた用紙を達哉に渡した。
その紙面にさらりと目を通し、申請のおおよその内容を把握する。それほど急ぐ内容ではなかったため、達哉はそれをひらりと裏に返して書類箱へ入れた。
ふと視線を上げると、こちらの様子を見守っていた忍の、穏やかな栗色の瞳とかち合う。途端、こんな場所で暢気に居眠りなどしていた自分が、無性に腹立たしくなった。
もしもここに居合わせたのが忍ではなく文昭だったなら、こんな気持ちにはならない。それがなぜなのかという部分には触れずに、ただその事実だけを認識しつつ、達哉はデスクの上に肘をついた。
「おまえさ……」
ため息をつきながら、達哉は言った。
「なんで、言わなかった? ……東條のこと」
「………」
忍は沈黙し、絡んだ達哉の視線を振り切るように俯いた。
「俺の、個人的な問題だよ」
「引き継ぎで、嫌でもあいつと関わることになるぞ」
「わかってる。仕方ないだろう、そんなこと」
少しだけ語気を荒らげて、忍が答えた。
ちょうどその時、予鈴が鳴る。午後の授業が始まるのだ。達哉は苛ついて、忍を睨んだ。
「……わかってるなら、いい」
抑えた声音でそう言うと、達哉はシャツの胸ポケットに入れていた生徒会室の鍵をデスクの上に叩きつけて、足早に生徒会室を後にした。
なぜ苛つくのかは、わからない。だが、認めたくないことだったが……達哉の昨夜の寝不足の原因は、忍だった。
最初のコメントを投稿しよう!