ふと、思い出すこと

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湯浅美琴(ユアサミコト)が、お前のこと好きかもしれない」  友人の一人が冗談口調で唐突に言った言葉に、俺ーー渋沢誠(シブサワマコト)ーーは、眉を寄せ迷惑顔を露骨に見せる。 「なんの冗談だよ。どこ情報だよ、それ」  噂好きの友人のことだから、きっとどこからか拾ってきた小さな噂話を、さも大袈裟に言っているのだろうと思い、適当にあしらおうと興味無さげに答えた。 「いや~、森田が修学旅行の時に撮った写真をこの前見せて貰ったんだけどさ、そこに何枚か誠が写ってる写真があって、その中に、湯浅も一緒に写ってるのがあってさ~」  森田というのは写真好きのクラスメートである。そういえば、やたらと張り切って写真を撮っていたっけ。 「そりゃあ、たまたま写り込むことだって、あるだろ」 「まあ、そうなんだけどさ。湯浅、誠の方を見てるっぽいんだよなー。だから、湯浅がお前のこと好きなんじゃないのかって噂が出来たんだけど」 「たまたまだろ。湯浅の視線の先に俺がいたとして、だから好きとは限らないし、騒ぐことでもなければ噂にすることでもない」  噂話は好きではない。  不確かな人伝で広まった情報に左右されるのが馬鹿馬鹿しいからだ。しかし、目の前の友人みたいに、そんな事を楽しいと思ってる奴もいるもんだから、人間関係というのはめんどくさい。 「渋沢って、本当に連れないよな~。まあ、相手が湯浅だもんな~、盛り上がらないよな~、うんうん」  どうやら、噂の相手が湯浅だから、俺が話に乗ってこないと思っているらしい。  否定するのも面倒くさくなり、その友人の言葉に返答せずに、「修学旅行気分が消えないのは良いけど、そろそろ期末だぞ? 勉強に集中しろよ」と、高校受験を控えた自分達の辛い現実を言葉にすると、友人は「やめてくれ~」と頭を掻きながら、机に伏せた。  その様子に、俺は漸くクスリと笑いを溢す。悪い奴ではないのだ。ただ、噂が好きなだけで。ただ、少しばかり正直なだけで。  因みに、湯浅美琴というのは同じクラスの女子である。少し大人しめの普通の子だ。目の前の友人からすると、地味の部類に入るのかもしれない。きっと好みなタイプではないのだろう、だから、先ほどのような発言が口から飛び出したのだ。俺からしてみれば、女の子はみんな同じように見える為、先ほどの彼の言動は、反応に困る。  この時は、友人がした噂話など、あってないようなものだと思い、大して気にもせず、一週間後に控えている期末テストのことに集中した。  噂なんて馬鹿馬鹿しい。  どうせ、すぐに皆興味が無くなって、忘れてしまうのだから。  そう思っていた。
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