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電車で五駅先にある寺院に着いた。
美しい日本庭園が目の前に広がる和室で、詩織が母やフサフサの耳を生やした男の子と共に座っていると、寺の住職が入ってきた。
「初めまして」
笑顔を向けてくるおじさんは、住職には見えない。漆黒の髪はオールバックで決められていて、ワイルドな印象の男前。
「詩織ちゃん、僕が君の父親になる京堂 斗真だ。よろしく」
「はぁ~!?」
「って……、あれ? 話聞いてないのかい?」
戸惑いながら母を見つめるワイルドな住職。母は不思議そうな顔を詩織に向けた。
「手紙、読んでないの?」
(手紙……? そういえば、三日ほど前に渡された様な……?)
「……読んでなかった」
仕事三昧の母とは顔を合わせる時間が少なく、普段ゆっくり話をする事は出来なかった詩織。代わりに母は、彼女によく手紙を書いた。小さい頃は返事を一生懸命書いた詩織だが、小学校高学年にもなると読んで終わり。返事のない文章を、母もあまり書かなくなった。
大事な話だから、ちゃんと読んでと久々に渡された手紙は、封も開けぬまま……。机の引き出しに放り込んである。どうやら、それには重大な事が書かれてあったらしい。
「嫌なら遠慮なく言ってって書いたのに、返事が全くなかったから了承してくれたと思ってたわ。銀太君に対する反応がおかしかったのは、何も分かってなかったからなのね……」
何も分かっていなかった私に、母は一から説明してくれた。
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