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9章
ドレッド·モーリス率いるストリング軍がクロエと交戦中――。
アンとノピア、そしてニコを乗せたトレモロ·ビグズビーが、ストリング城へと向かっていた。
「あいつらは置いて来てよかったのか?」
ノピアが操縦桿を握りながら、アンへと訊ねた。
アンは、航空機内にある座席から、覇気のない声で返事をする。
「ああ、メディスンたちには援軍を集めてもらってる。あとから追いついてくれるさ」
アンの言葉を聞いたノピアは、フンッと鼻を鳴らすと、ズレてもいないスカーフの位置を直した。
ノピアには何故アンがメディスンや、ブラッド、エヌエーら反帝国組織の軍を置いてきたのか、その本当の理由がわかっていた。
表向きは、兵の数が足りないから各地にいるバイオ·ナンバーの仲間や、和平交渉し、協力を得られたストリング帝国軍を集めてもらうという話だったが――。
「正直に言ってやればよかったんだ。お前らじゃ役に立たんとな」
ノピアの皮肉交じりの言葉に、何も言い返せずにいるアン。
それは、今ノピアが言ったことが事実だったからだ。
メディスンたちとの話では、アンとノピアが斥候としてクロエの様子を見るということだったが、2人はそのまま戦いを挑むつもりだった。
そう――。
アンは端から嘘をついていたのだ。
メディスンたちの援軍など待つ気はない。
それはもう、これ以上自分が知る人が死んでいくのを見たくないという理由からだった。
「私はダメだな、ニコ……」
豊かな白い毛を持つニコの体を抱きながら、アンが呟くように言った。
アンに見つめられたニコは、悲しそうな表情を向けていた。
「メディスンにブラッド、そしてエヌエーに迷惑をかけた上に嘘までついて……」
今にも泣きだしそうなアンの声を聞いたニコは、優しく穏やかな声で鳴いた。
アンはその声を聞くと、深く――縋るように抱いていた手の力を強くした。
「今からでも遅くはないぞ。通信で「弾除けになってくれ」と一報を入れればいい」
「……お前という奴は!! どうしてそう人を怒らせるようなことばかり言うんだ!!! 私だって本当はみんなと一緒に――」
アンが座席から立ち上がって怒鳴りあげようとした瞬間――。
彼女の頭の中に、無数の声が聞こえて来ていた。
「っく!? な、なんだこの声は!? 苦痛に満ちていて頭が割れそうだッ!!!」
アンは頭を抱え、その溢れる絶望の声に身を震わせていた。
ニコはそんな彼女の体を寄り添うように支えている。
「なんだこの……不愉快な感覚は……?」
ノピアもアンと同じく、無数の声が聞こえていた。
表情を歪め、その声に負けじと操縦桿を握る手に力を込める。
マシーナリーウイルスに侵され、“適合者”となった2人には不思議な能力が目覚めていた。
Personal link(パーソナルリンク)――通称P-LINK。
マシーナリ―ウイルスの適合者、または合成種同士なら、たとえ離れていても互いの存在を確認できたり、テレパシーのようなもので会話できたりする力のこと。
さらに覚醒すれば、互いの心の中に入ることができるようになる。
「こ、これはまさかクロエ……?」
「ああ、間違いないな。あの女の虐殺が始まっている。奴が私たちに聴かせているのは皆殺しのメロディだ」
適合者であるアンとノピアには、今クロエが感じているものが伝わって来ていた。
声と共に、そのクロエから見える映像も2人には見え始めている。
「ノピア、急いでくれッ!! 早くしないと人がもっと殺されてしまうッ!!!」
アンの叫びを聞いたノピアは、不機嫌そうに舌打ちをすると、トレモロ·ビグズビーの速度を上げた。
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