2章

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

2章

エヌエーは(うつむ)きながら、メディスンが今のアンを見て言ったことを思い出していた――。 「おいアン! お前が(あきら)めちまってどうすんだよ!」 「そうよアン! あなたの(いもうと)や友達はクロエのところへ行っちゃったんだよ!」 完全に意気消沈(いきしょうちん)しているアン。 そんな彼女にブラッドとエヌエーは必死(ひっし)で声を()けた。 ブラッドもエヌエーも、シックスたちの死を聞いて落ち込んでいた。 だが、二人は自分をけしかけていた。 今は(かな)しんでいるよりも先に、ブラッドとエヌエーの2人は、(ふたた)びアンに(ふる)い立ってもらいたかったのだ。 現在(げんざい)クロエが、世界中をストリング城で回りながら、人類(じんるい)滅亡(めつぼう)させると宣言(せんげん)している。 止めれるものなら止めてみろと言っているのだと、2人は声をかけ続けた。 だか、アンは何も答えない。 ただ毛布(もうふ)にくるまっているだけだ。 ニコもブラッドやエヌエーと同じ気持ちなのか、アンの体を()すっている。 それでも彼女は何の反応(はんのう)も見せない。 「寝かせておいてやれ。こいつはもう限界(げんかい)なんだろう」 ブラッドとエヌエーにそう言ったメディスン。 彼にそう言われた2人は言葉を止め、ニコも揺すっていた手を(はな)した。 そして、メディスンは言葉を続けた。 もういいだろう。 アンは大事な者の死を見過(みす)ぎたのだ。 そんな彼女に、お前たちはまた戦えと言うのか? それは随分(ずいぶん)残酷(ざんこく)だなと、彼は言った。 「そいつは(ほう)っておいてやれ。俺たちは戦いに行くぞ。どうやら帝国のほうはもう動き出したようだからな」 メディスンは()を向けたまま言うと、そのまま軍幕(ぐんまく)テントから出ていった。 クロエの人類滅亡宣言を聞いた世界中の人間たちは、クロエを(たお)そうと動き出し始めていた。 それはもちろんストリング帝国や、メディスンらの(ぞく)するバイオナンバーも同じだった。 だが、まだ多くの場所で帝国とバイオナンバーの戦争は続いている。 この混乱時(こんらんじ)――。 世界中で戦っていた帝国とバイオ·ナンバーは、各部隊(かくぶたい)指揮(しき)する者の性格(せいかく)によって左右(さゆう)されてしまっていた。 帝国は指導者(しどうしゃ)であったレコーディー·ストリングを(うしな)い――。 バイオナンバーはすでにリーダーであったバイオが()くなっている。 それでも、メディスンのような帝国との戦いを後に回す選択(せんたく)をする指揮官もいたが、すでに両軍(りょうぐん)とも統制(とうせい)はとれていなかった。 「……アン。ちゃんと食べてね」 エヌエーはそう言うと、(かな)しそうにしているニコの頭を()でて軍幕テントから出ていった。 アンはベットで横になりながら考えていた。 戦うなんてもう(いや)だ。 勝ったときでさえ何も()てこなかったのだ。 むしろ失うばかりだ。 これ以上生きていて何になる? と、彼女はそのことしか頭に()かんでこない。 ニコはそんな(くる)しそうなアンを見て、ただ(そば)で立ち()くしていることしかできなかった。 ……アン……しっかりしてよ。 あなたはどんな状況(じょうきょう)だって、あたしたちを引っ張ってくれたじゃない。 シックスが処刑(しょけい)されそうになったときだって……。 あなたがもう(あきら)めていたあたしたちに道を(しめ)してくれた……。 それとも……メディスンの言う(とお)り、もう限界(げんかい)なの……? このままじゃ世界は(ほろ)ぼされちゃうよ……。 今にも泣きそうな顔をしたエヌエーが歩いていると――。 突然空から航空機(こうくうき)――オスプレイが()りてきた。 それは、ストリング帝国の科学力(かがくりょく)(ほこ)兵器(へいき)の1つ――トレモロ·ビグスビー。 全長約17m 全幅約25m 全高約7m。 垂直離着陸型(すいちょくりちゃくがた)のそれは、ヘリコプターの垂直離着陸能力を持ちながら長距離飛行移動(ちょうきょりひこういどう)可能(かのう)であり、最大で約20人は乗員可能。 その帝国のものであるトレモロ·ビグスビーが、反帝国組織(はんていこくそしき)バイオ·ナンバーの野営地(やえいち)に何故と、空を見上げたエヌエーは考えていた。 「やっと来たな」 「なあメディスン。信用できるのかよ?」 エヌエーが歩いていると、前にメディスンとブラッドが(あら)れ、何やら話をしていた。 そして、トレモロ·ビグズビーが着陸(ちゃくりく)()()ったエヌエーが、メディスンとブラッドに声をかけた。 一体こんなときに誰が来たのか? と。 すると、トレモロ·ビグズビーから人が出てきた。 その様子を見ながら、メディスンがエヌエーへ言う。 「俺もお前も、そしてブラッドもよく知っている人物だ。そして、これからクロエと戦うのに必要(ひつよう)な男……」 三人の前に(あらわ)れたのは、深い青色の軍服――アンと同じストリング帝国兵の(ふく)を着た男だった。 エヌエーは、男の姿を見て狼狽(うろた)え始めていた。 「あなたは……ノピア将軍(しょうぐん)ッ!?」 そこには不機嫌(ふきげん)そうに(くび)に巻いたスカーフの位置を直す男――ノピア·ラシックが立っていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!