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34章
クロエの体から水晶が飛び出すと、アンの頭の中に声が聞こえてきた。
「アン……聞こえる? あたしだよ……」
アンはその声をよく知っていた。
……もしかして、マナなのか?
アンの問いに、その声は優しく笑い返した。
そして、その水晶が彼女を配線から守るように炎を放ち、突き刺さろうと迫っていた線を一掃する。
「バカな!? どうして、どうしてなの!?」
激しく狼狽えるクロエ。
そして、彼女の体から次々に水晶が飛び出していく。
「アン……立つんだ、アン。お前はどんな状況だろうが、自分勝手に人を救ってきただろう?」
……キャス……?
「ああ、あのときも……俺が捕まったときもそうだったな」
……シックス……?
「へぇ~そんなことがあったんだ。ボクが炭鉱跡で暴れちゃったときと同じだね」
……クロム……?
そして、水晶たちが光ると、水と風が配線を切り裂き、地面から現れた土の壁がアンの体を包み込む。
「みんな……生きていたのか……」
アンはその様子を見て、泣きながら笑っていた。
流れる涙を拭うことすらせずに、ただ仲間たちの声に歓喜して震えている。
「アン……」
その声と共にアンの体へ波動――うねるオーラのようなものが覆っていく。
……ロンヘア……なのか?
アンを抱きしめるように包み込むオーラ。
その抱擁は限りなく優しく、そして暖かい。
「みんな、君がしてきた記憶を忘れていないよ」
それから、さらに光の壁が現れ、アンの周囲をうごめいていた配線をすべて消し去った。
「お前の傍にはいつも私たちがいる。さあアン……立ち上がるんだ」
……ルーザー……そうか……みんな、私の近くにいてくれたんだな……。
「そうだよ、アン。ぼくはずっと見てきた……。きみが子供のときから誰かのために戦ってきたのを……ずっと見てたよ」
……ニコ……お前も……。
「本当は戦うことが好きじゃないのに……。それでもずっと……ずっと……。きみのその優しさが今みんなを動かしているんだ」
アンは抱いていたニコを優しく床に寝かすと、ゆっくりと立ち上がった。
「チッ!! さっきラスグリーンが何かしたのか!?」
クロエが表情を歪めて叫ぶと、手を翳し、そこにエネルギーを集めていく。
「だけど、いくら邪魔をしようと無駄よ」
クロエは、巨大なエネルギーの塊を手から放ち、アンを守っていた水晶たちを破壊した。
そして、第2撃――。
再びエネルギー体を放とうとしていると――。
「お願い……リトルたち……」
クリアの呟きと共に持っていた2本の刀をアンへと投げた。
その刀は2匹の犬の姿をした精霊――。
小雪と小鉄となって、クロエの放った第2撃からアンの盾となり、彼女の身を守った。
クロエはまた表情を強張らせたが、すぐに笑みを浮かべる。
「でも、それじゃもうあなたを守ってくれるお化けはいないわね」
そう言うと、クリアに向かって無数の矢のような光の波動を放った。
満身創痍で目も見えず、リトルたちも手放したクリアには、その雨のように降り注ぐ攻撃を防ぐ手段はなかった。
「避けてくれ、クリアッ!!!」
アンの叫びも空しく、クリアの体はまるでハリネズミのように、体中に光の矢が刺さった状態となった。
そんな無残な姿となったクリアだったが、その顔は満足そうに微笑んでいた。
「クリア……嘘だろ……?」
彼女の姿を見て俯くアン。
そのとき、前に倒れているリトルたちから現れた波動が、彼女のことを包み込んだ。
そして、声が聞こえてくる――。
「アン……」
波動が形を作り、それはクリアの姿となった。
「……クリア……どうして私なんか助けたッ!?」
アンが訊ねるとクリアは上品に笑って見せる。
「私はあなたに救われたんです……夫を失い。歯車の街で人斬りとなっていた私に光をくれたのは……アン……あなたなのですよ」
「クリア……」
「さあ、アン。戦って……そして、いつものようにみんなを――世界を救って……。あなたならできるでしょう?」
クリアの声――。
その言葉が終わると、アンを包んでいた波動――クリアの姿も消えていった。
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