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35章
消えていくクリアの姿を見たアンは立ち上がる。
その体には、再び機械化が始まっていた。
機械の部分が彼女の体を徐々に侵食していく。
いや、マシーナリーウイルスを完全に制御しているアンにとって、もはやそれは侵食ではなく、装甲と呼んだほうがいいのかもしれない。
だが、それだけではない。
体の右側からは炎が燃え盛り、左側からは水が湧き出ている。
さらにアンの周囲から風が巻き起こり、地面が激しく揺れ始めた。
そして、稲妻が迸ると、彼女は全身から白い光を放っている。
「ありえない!? こんなバカなことが起きるはずないわッ!?」
クロエはアンの姿を見て後退っていた。
そのときの表情は、彼女が初めて見せる――恐怖で歪んだ顔だった。
マナの炎を操る力――。
キャスの水を流し出す力――。
シックスの風を起こす力――。
クロムの大地を揺らす力――。
そして、ルーザーの光の波動――。
今のアンは、クロエが使用していたのみんなの力を操ってみせていた。
そして、目の前で倒れている犬の姿をした2匹の精霊――。
小雪と小鉄にそっと触れる。
「お願いだ、リトルたち……。私にクリアの力を……貸してくれッ!!!」
小雪と小鉄はアンの呼びかけに応じ、その犬の姿を白と黒の刀へと変えていく。
クリア·ベルサウンドだけが受けた精霊の加護――。
彼女だけが扱える剣へと変身し、それがアンの両手へと渡った。
アンがクロエに向かって吠える。
「大事……みんなの思いは大事ッ!!!」
そして、2本の刀を構えて彼女を睨みつけた。
そのアンの力強い眼差しを浴びたクロエは、今になって自分が怯えていることを感じていた。
冷や汗が止まらない。
足が震えている。
表情が固くなる。
おまけに頭痛と吐き気まで。
クロエは、もう完全に忘れてしまっていた感覚を味わっていた。
それは強いストレスだ。
「う、嘘よ……私が……こんな……こんなことって……」
今までずっと他者を、その圧倒的な力で恐怖に陥れてきたクロエ。
だが、それが自分の身に振りかかった瞬間――。
彼女は狼狽するただの女となっていた。
「これで終わりだッ!! クロエッ!!!」
アンは両手に握った小雪と小鉄をもって、クロエの体を十字に斬り裂く。
「ぎゃあぁぁぁッ!!!」
激しく金切り声をあげたクロエ。
それから、アンは四方へ斬り裂かれた胴体を、仲間たちの力で完全に消滅させた。
そして、そのクロエが奪ったクロム·グラッドスト―ンの顔が宙を飛び、半壊していた玉座の間の天井へと突き刺さった。
「やった……やったよ……みんな……」
アンはその場に両膝をついて、そう呟いた。
彼女の体はもう限界が来て、右手以外はすべて生身へと戻っていく。
小雪と小鉄も犬の姿へと戻り、その場にグッタリと倒れた。
アンはそんな2匹を見て微笑んでいた。
……これですべてが終わった。
世界は救われたんだ。
マナ、キャス、シックス、クロム、そしてルーザー……。
クリア、ルドベキア、ロンヘア……みんな……みんなのおかげだよ……。
アンがそう安心していると――。
「ちょっと夢中になり過ぎちゃったみたいね」
クロエの声が聞こえてくる。
アンは体を起こして、辺りを見渡した。
「まあ、私があなたを出し抜くなんて容易いことなんだけどさ。それはもう、いとも簡単に、容易に、そして軽々とね」
余裕と自信に満ち溢れた声のその先には――。
「たとえ奇跡が起きてもそのチャンスを逃しちゃうなんて、所詮は人間の女の子よね~」
無数の配線が、その小さな体に突き刺さったローズ·テネシーグレッチ――。
アンの妹のロミーが、妖艶な笑みを浮かべて立っていた。
「クロエ、お前……ローズの体をッ!?」
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