35章

1/1

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

35章

消えていくクリアの姿を見たアンは立ち上がる。 その体には、(ふたた)機械化(きかいか)が始まっていた。 機械の部分(ぶぶん)が彼女の体を徐々(じょじょ)侵食(しんしょく)していく。 いや、マシーナリーウイルスを完全に制御(コントロール)しているアンにとって、もはやそれは侵食ではなく、装甲(アーマード)と呼んだほうがいいのかもしれない。 だが、それだけではない。 体の右側からは(ほのお)()(さか)り、左側からは水が()き出ている。 さらにアンの周囲(しゅうい)から風が()()こり、地面(じめん)(はげ)しく()れ始めた。 そして、稲妻(いなづま)(ほとばし)ると、彼女は全身から白い(ひかり)(はな)っている。 「ありえない!? こんなバカなことが()きるはずないわッ!?」 クロエはアンの姿を見て後退(あとずさ)っていた。 そのときの表情(ひょうじょう)は、彼女が(はじ)めて見せる――恐怖(きょうふ)(ゆが)んだ顔だった。 マナの(ほのお)(あやつ)る力――。 キャスの水を(なが)し出す力――。 シックスの風を()こす力――。 クロムの大地を()らす力――。 そして、ルーザーの光の波動(はどう)――。 今のアンは、クロエが使用していたのみんなの力を(あやつ)ってみせていた。 そして、目の前で(たお)れている犬の姿をした2匹の精霊(せいれい)――。 小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティール)にそっと()れる。 「お(ねが)いだ、リトルたち……。私にクリアの力を……()してくれッ!!!」 小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティール)はアンの呼びかけに(おう)じ、その犬の姿を白と黒の(かたな)へと変えていく。 クリア·ベルサウンドだけが受けた精霊の加護(かご)――。 彼女だけが(あつか)える(けん)へと変身(へんしん)し、それがアンの両手(りょうて)へと(わた)った。 アンがクロエに向かって()える。 「大事(だいじ)……みんなの思いは大事ッ!!!」 そして、2本の刀を(かま)えて彼女を(にら)みつけた。 そのアンの力強(ちからづよ)眼差(まなざ)しを()びたクロエは、今になって自分が(おび)えていることを感じていた。 ()(あせ)が止まらない。 足が(ふる)えている。 表情(ひょうじょう)(かた)くなる。 おまけに頭痛(ずつう)()()まで。 クロエは、もう完全に(わす)れてしまっていた感覚(かんかく)(あじ)わっていた。 それは強いストレスだ。 「う、(うそ)よ……私が……こんな……こんなことって……」 今までずっと他者(たしゃ)を、その圧倒的(あっとうてき)な力で恐怖に(おとしい)れてきたクロエ。 だが、それが自分の身に()りかかった瞬間(しゅんかん)――。 彼女は狼狽(ろうばい)するただの女となっていた。 「これで終わりだッ!! クロエッ!!!」 アンは両手に(にぎ)った小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティール)をもって、クロエの体を十字(じゅうじ)()()く。 「ぎゃあぁぁぁッ!!!」 (はげ)しく金切(かなき)(ごえ)をあげたクロエ。 それから、アンは四方(しほう)へ斬り裂かれた胴体(どうたい)を、仲間たちの力で完全に消滅(しょうめつ)させた。 そして、そのクロエが(うば)ったクロム·グラッドスト―ンの顔が(ちゅう)を飛び、半壊(はんかい)していた玉座(ぎょくざ)()天井(てんじょう)へと()()さった。 「やった……やったよ……みんな……」 アンはその場に両膝(りょうひざ)をついて、そう(つぶや)いた。 彼女の体はもう限界(げんかい)が来て、右手以外はすべて生身(なまみ)へと(もど)っていく。 小雪(リトル·スノー)小鉄(リトル·スティール)も犬の姿へと戻り、その場にグッタリと(たお)れた。 アンはそんな2匹を見て微笑(ほほえ)んでいた。 ……これですべてが終わった。 世界は(すく)われたんだ。 マナ、キャス、シックス、クロム、そしてルーザー……。 クリア、ルドベキア、ロンヘア……みんな……みんなのおかげだよ……。 アンがそう安心していると――。 「ちょっと夢中(むちゅう)になり()ぎちゃったみたいね」 クロエの声が聞こえてくる。 アンは体を起こして、(あた)りを見渡(みわた)した。 「まあ、私があなたを出し()くなんて容易(たやす)いことなんだけどさ。それはもう、いとも簡単(かんたん)に、容易(ようい)に、そして軽々(かるがる)とね」 余裕(よゆう)自信(じしん)()(あふ)れた声のその先には――。 「たとえ奇跡(きせき)が起きてもそのチャンスを(のが)しちゃうなんて、所詮(しょせん)は人間の女の子よね~」 無数(むすう)配線(はいせん)が、その小さな体に突き刺さったローズ·テネシーグレッチ――。 アンの(いもうと)のロミーが、妖艶(ようえん)な笑みを()かべて立っていた。 「クロエ、お前……ローズの体をッ!?」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加