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36章
アンの目の前にはローズ·テネシーグレッチこと――アンの妹であるロミーがいる。
だが、その表情や仕草――雰囲気は彼女の知っている妹のものではなかった。
それはロミーの姿はしていても、完全にクロエそのものだった。
「それにしても全身真っ黒なんて……ダサいわね」
クロエは、ロミーが着ていた黒装束の両袖を引き千切ると、恍惚の表情を浮かべる。
「ああ……やっぱりいいわ。この肉体」
そして、自分の体――ロミーから奪った体を弄りながら喘ぎ声を出し始めた。
その姿はまるでポルノ女優が自慰行為をするような、なんとも艶っぽいものだった。
それからクロエは自分語りを始めた。
数百年かけてようやく手に入れた。
これほどまで気分がいいのは、人間だったとき以来だ。
そして、これからこの地球は再生する。
人類を滅ぼし、自分が創造した新たなる生物が世界を埋め尽くすのだと。
「もうあなたたちに未来はない。所詮、猿如きが何を頼ろうが私を超えることなんてできないのよ」
そう言いながらクロエは、ロミーの体を堪能すると、これまでで見せた最高の高笑いをして見せた。
それは、目の前にいるアンに勝ち誇っているというよりは、これから自分が行うことを想像すると笑いが止まらないといった様子だった。
それからクロエは両腕を左右に思いっきり伸ばし、その手を大きく広げる。
「マシーナリーウイルス、合成種、光の波動、精霊の加護……結局それらすべては私が創造主になるための踏み台であり、糧であり、これからの世界を創るために利用されるものだった!」
クロエは大笑いしながら全身から炎、水、風を乱雑に放ち始め、天井や壁、さらには自分がいる地面を震わせて大地を割り、玉座の間を破壊いしていく。
そして、自身はゆっくりと宙へと浮いていった。
「ローズ……私のせいで……」
アンはただ両目を見開いて、ただその光景を見ていることしかできなかった。
そのとき――。
アンの頭の中に声が聞こえ始める。
「おい……おい、アン。お前のせいじゃない。マヌケにも身体を奪われたあたしの責任だ」
高圧的な喋り方に不機嫌そうな声――。
アンは聞こえてくる声の主が誰なのか、すぐに気がついた。
「これは……P-LINK……? ローズ、ローズなんだな!」
アンが内面で声を張り上げた。
だが、ロミーはその問いには答えずに、フンッと鼻を鳴らすと不機嫌そうに喋り始める。
「全部、奴が描いた絵図だったんだ……。あぁっクソッたれ! イライラする」
「お前……何を言って……?」
会話が噛み合わない。
意思の疎通ができない。
今2人は、互いに相手が何を考えているのか、心を感じ取れる状態だったが、アンはロミーからまるで友人にでも騙された悔しさのような――。
そんな些細な感情しか感じ取れなかった。
ロミーは、戸惑っているアンなどお構いなしに続ける。
「アン……」
その声は今までは違い、ロミーの深い悲しみを感じさせた。
アンはそれを感じ取りながらも、名前で呼ばれたことを驚いていると――。
「最後に……ルーが言っていたんだ……。みんなと仲良くやれって……特にアンはお前の姉ちゃんなんだから……って……」
言葉に詰まりながらロミーは、その声を震わせている。
「あたしはお前が嫌いだ! だけど……生き残れよ!」
突然声を張り上げたロミー。
彼女の声が段々と聞き取りづらくなっていった。
「誘ったときは来なかったくせに後からノコノコと来やがってッ! その生意気な顔を一発ぶん殴ってやらないと気が済まないからな!!!」
そして、ロミーの声が完全に消えてしまった。
「ローズ……。ああ、絶対に生き残るぞ、私は」
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