27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
38章
クロエは高らかに笑った。
もはや自分を超える存在などこの世界にはいない。
それはクロエと同じ力を持ちながらも、すべてにおいてアンを上回ってみせた結果から来る自信の表れだった。
だが、アンはまだ立ち上がろうと体を動かし始めていた。
「ふん。まだやる気なの?」
クロエは呆れて大きくため息をつくと、立ち上がろうとしていたアンの顔面を蹴り上げた。
アンは軽く蹴りを入れられただけ、まるで弾むボールのように吹き飛ばされていく。
「あなたがやろうとしていることは、ドブ川を綺麗にしようと必死で掃除することと同じだわ」
蹴り飛ばされたアンへと近づいて行くクロエ。
倒れたままのアンの体は、すでに能力の発動は止まり、右腕以外の機械化――装甲も消えていた。
「それじゃダメなのよね。やっぱり綺麗にするのなら川の水をすべて変えないといけない。わかるでしょう? だから人類は滅ぼさないといけないの」
クロエはある程度近づくと、まるでアンに言い聞かせるように話し始めた。
人類の愚かな歴史――。
いくら科学を発展させようが、それはすべて他人を――
他国を――。
自分の以外の者の足を引っ張るために使う。
隣人は自分よりも金を稼いでるとか――。
隣国はこちらよりも強力な兵器を開発させたとか――。
ただ、他の者に文句をつけるため――。
気に食わない主張をする国と戦争をするため――。
そんなくだらないことのために、この地球を傷つけた人類はもう排除するしかない。
「あなたも見てきたんじゃない? ストリング帝国に住んでいた何も考えずにただ子供を生産する機械のような住民、バイオナンバー内で起きた親殺し、ガーベラドームやホイールウェイでの利己的な人間たちを」
「そうだな……」
アンは倒れたままの状態で顔を上げた。
「たしかにクロエ……お前の言う通りかもしれない……だがッ!!!」
彼女は、酷く腫れあがった顔をしていたが、それでも強い言葉で返事をする。
「私はそれ以上に他人のために命を懸けていた人たちを知っているぞ!!!」
そして、アンは立ち上がった。
まるで生まれたばかりの小鹿のような頼りない足取りで、クロエと向かい合う。
もう戦える力が残っていないのに、まだ心が折れていないアン。
そんな彼女の姿を見たクロエの顔から笑みが消える。
「そう……なら、あなたもその仲間に入るといいわ」
クロエは両手を前に翳して、アンへ電撃を放った。
アンはその身を焦がされながら絶叫。
クロエはこのまま彼女が塵になるまで、その攻撃を続ける気だ。
「あぁぁぁッ!!!」
すでに天井も壁も何も残っていない玉座の間。
絶叫だけが響き渡るその場所に――。
アンに腕を斬り裂かれたグレイが現れる。
クロエはその手を止め、彼のほうを見た。
攻撃を止めてまでグレイを見た彼女だったが、さして興味がないのだろう、すぐにまた電撃を放つ。
グレイは、ゆっくりとクロエとアンがいるところへと歩き出していた。
電撃を浴びながらもアンは、そんなグレイに気がつく。
「グレイ……助けて……」
子が親に救いを求めるように――。
アンはグレイに向かって、今にも泣き出しそうな声で言った。
クロエはアンの救いを求める声が聞こえていたのだろうが、全く気にせずに電撃を放ち続けていると――。
当然、彼女の体に何かが突き刺さった。
「くッ!? こ、これはッ!?」
クロエはこの感覚をよく知っていた。
それは、このストリング城の至るところにある――。
メインコンピューターと自分とを繋ぐために配線だと、彼女は気がつく。
一体何起きたのだと、クロエは自分に繋がった配線を見ようとすると――。
「もう終わらせるよ、ママ……いや、コンピュータークロエ」
そこには、全身から無数の配線が出ているグレイの姿であった。
最初のコメントを投稿しよう!