38章

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38章

クロエは(たか)らかに笑った。 もはや自分を()える存在(そんざい)などこの世界にはいない。 それはクロエと同じ力を持ちながらも、すべてにおいてアンを上回(うわまわ)ってみせた結果(けっか)から来る自信(じしん)(あらわ)れだった。 だが、アンはまだ立ち上がろうと体を動かし始めていた。 「ふん。まだやる気なの?」 クロエは(あき)れて大きくため息をつくと、立ち上がろうとしていたアンの顔面(がんめん)()り上げた。 アンは(かる)く蹴りを入れられただけ、まるで(はず)むボールのように()き飛ばされていく。 「あなたがやろうとしていることは、ドブ川を綺麗(きれい)にしようと必死(ひっし)掃除(そうじ)することと同じだわ」 蹴り飛ばされたアンへと近づいて行くクロエ。 (たお)れたままのアンの体は、すでに能力(のうりょく)発動(はつどう)は止まり、右腕(みぎうで)以外の機械化(きかいか)――装甲(アーマード)も消えていた。 「それじゃダメなのよね。やっぱり綺麗にするのなら川の水をすべて変えないといけない。わかるでしょう? だから人類(じんるい)(ほろ)ぼさないといけないの」 クロエはある程度(ていど)近づくと、まるでアンに言い聞かせるように話し始めた。 人類の(おろ)かな歴史(れきし)――。 いくら科学(かがく)発展(はってん)させようが、それはすべて他人(たにん)を―― 他国(たこく)を――。 自分の以外の者の足を引っ()るために使う。 隣人(りんじん)は自分よりも金を(かせ)いでるとか――。 隣国(りんごく)はこちらよりも強力(きょうりょく)兵器(へいき)開発(かいはつ)させたとか――。 ただ、(ほか)の者に文句(もんく)をつけるため――。 気に食わない主張(しゅちょう)をする国と戦争(せんそう)をするため――。 そんなくだらないことのために、この地球(ほし)(きず)つけた人類はもう排除(はいじょ)するしかない。 「あなたも見てきたんじゃない? ストリング帝国に住んでいた何も考えずにただ子供を生産(せいさん)する機械のような住民、バイオナンバー内で()きた親殺し、ガーベラドームやホイールウェイでの利己的(りこてき)な人間たちを」 「そうだな……」 アンは倒れたままの状態(じょうたい)で顔を上げた。 「たしかにクロエ……お前の言う(とお)りかもしれない……だがッ!!!」 彼女は、(ひど)()れあがった顔をしていたが、それでも強い言葉で返事をする。 「私はそれ以上に他人のために(いのち)()けていた人たちを知っているぞ!!!」 そして、アンは立ち上がった。 まるで生まれたばかりの小鹿(こじか)のような(たよ)りない足取(あしど)りで、クロエと向かい合う。 もう戦える力が(のこ)っていないのに、まだ(こころ)()れていないアン。 そんな彼女の姿を見たクロエの顔から笑みが消える。 「そう……なら、あなたもその仲間に入るといいわ」 クロエは両手(りょうて)を前に(かざ)して、アンへ電撃(でんげき)(はな)った。 アンはその身を()がされながら絶叫(ぜっきょう)。 クロエはこのまま彼女が(ちり)になるまで、その攻撃(こうげき)を続ける気だ。 「あぁぁぁッ!!!」 すでに天井(てんじょう)(かべ)も何も残っていない玉座(ぎょくざ)()絶叫(ぜっきょう)だけが(ひび)(わた)るその場所に――。 アンに腕を()()かれたグレイが(あらわ)れる。 クロエはその手を止め、彼のほうを見た。 攻撃を止めてまでグレイを見た彼女だったが、さして興味(きょうみ)がないのだろう、すぐにまた電撃を放つ。 グレイは、ゆっくりとクロエとアンがいるところへと歩き出していた。 電撃を()びながらもアンは、そんなグレイに気がつく。 「グレイ……(たす)けて……」 子が親に(すく)いを(もと)めるように――。 アンはグレイに向かって、今にも泣き出しそうな声で言った。 クロエはアンの救いを求める声が聞こえていたのだろうが、(まった)く気にせずに電撃を放ち続けていると――。 当然、彼女の体に何かが()()さった。 「くッ!? こ、これはッ!?」 クロエはこの感覚(かんかく)をよく知っていた。 それは、このストリング城の(いた)るところにある――。 メインコンピューターと自分とを(つな)ぐために配線(はいせん)だと、彼女は気がつく。 一体何起きたのだと、クロエは自分に繋がった配線を見ようとすると――。 「もう終わらせるよ、ママ……いや、コンピュータークロエ」 そこには、全身から無数(むすう)の配線が出ているグレイの姿であった。
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