3章

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ

3章

ノピアの姿を見たエヌエーは、(まった)状況(じょうきょう)把握(はあく)できないでいた。 何故ならばロミーから聞いていた話では、彼はアンとロミー、ニコを(すく)うためにクロエと対峙(たいじ)していたと聞いていたからだ。 戸惑(とまど)っているエヌエーの(そば)でブラッドが、その顔を(ゆが)めている。 それもそのはずだ。 反帝国組織(はんていこくそしき)のリーダーであり、彼ら父親のような存在(そんざい)――バイオは、(もと)(ただ)せばノピアがメディスンを(そそのか)したことによってその(いのち)(うしな)ったのだ。 言うならば、バイオ·ナンバーにとってノピア·ラシックは親の(かたき)。 いくら彼がこれからコンピュータークロエとの戦闘(せんとう)戦力(せんりょく)になるとはいえ、その心中(しんちゅう)(おだ)やかではいられないだろう。 エヌエーもブラッドも、とてもノピアを信用できていないように見える。 「まさか君から通信(つうしん)が入るとはな。正直(おどろ)いたぞ」 だが、メディスンは普段(ふだん)と変わりなくノピアへ声を()ける。 ノピアの行動でバイオを死なせてしまったのはメディスンだ。 それでも、メディスンは彼を信用していた――いや信用せざるえないと言うべきか――。 ノピアはまたズレてもいないスカーフの位置を直しながら、フンッと(はな)()らして返した。 それを見てブラッドは苛立(いらだ)ち、エヌエーも表情(ひょうじょう)強張(こわば)らせる。 「そんなことよりも、アン·テネシーグレッチはどこにいる?」 「なんだよ、お前もアン(だよ)りか? こりゃ大層(たいそう)(すけ)()だな」 ノピアの不躾(ぶしつけ)な質問に(たい)して、ブラッドが皮肉(ひにく)を返した。 だが、ノピアは彼を無視(むし)してメディスンのほうを向いていた。 それが、さらにブラッドを苛立たせた。 「アンは……いることはいるのだが……。通信でも話した(とお)り、会っても無駄(むだ)だと思う……」 「(かま)わん。それを判断(はんだん)するのは私だ。(やつ)に会わせろ」 ()()てるように言うノピアを連れてメディスンは、アンのいる軍幕(ぐんまく)テントへと向かった。 その後ろについて来ようとしたブラッドとエヌエーに、メディスンは来ないように言う。 ブラッドは、どうしてだ? と思わず大声を出した。 エヌエーも何故なのかと(たず)ねる。 「今のアン()に愛やら友情(ゆうじょう)(やく)に立たん。『ヴェニスの商人』じゃ世界は(すく)えんからな。悪役(あくやく)(ひど)い目に()喜劇(きげき)など現実(げんじつ)ではあり()ない話だ」 「てめえ、何を意味のわかんねえことを言ってんだよッ!」 メディスンが答える前にノピアが返事をすると、その言葉に(おこ)ったブラッドが(つか)()かろうとした。 ブラッドはノピアの言っている(たと)え話は理解(りかい)できていなかったが、それが侮辱(ぶじょく)に近い言い(まわ)しであることを感じたからだった。 そんなブラッドを無言(むごん)で止めるメディスン。 そして、ブラッドとエヌエー2人へ自分の顔を向けた。 「もし親父なら……そしてシックス……あいつだったら……過去(かこ)(こだわ)らず、未来を良くしようとするはずだ」 その言葉を聞いたブラッドとエヌエーは、それ以上何も言うことができなかった。 そして、メディスンは、ノピアを連れてアンのいる場所へと歩いて行った。 バイオ·ナンバーの野営地内(やえいちない)を進んでいくメディスンとノピア。 (あた)りを見渡(みわた)しながらノピアは、こんな軍隊(ぐんたい)とも呼べない集団(しゅうだん)でよくやると思っていた。 「今、こんな素人(しろうと)(あつ)まりでとか思っていただろう?」 まるでメディスンに心の中を(のぞ)かれたように思ったノピア。 それから、(だま)って歩いていた2人に会話(かいわ)が始まる。 「メディスン……前に君と会ったときとは別人(べつじん)のように感じる」 ノピアが(つぶや)くような声で言うと、メディスンは笑みを()かべた。 その笑みは、まるで長年の友人にからかわれたようなものだった。 「それはお(たが)(さま)だな。相手を挑発(ちょうはつ)するような言い回しや威圧的(いあつてき)態度(たいど)は変わっていないが、君も私が知っているノピア·ラシックではないように思うよ」 メディスンがそう返事をすると、ノピアは「そうかもな」と笑みを返した。 「あと、ブラッドの奴をあまりからかわんでくれ。エヌエーもそうだが、あいつらは純粋(じゅんすい)というか、単純(たんじゅん)なんだ」 「私としては冗談(じょうだん)の1つでも言ったつもりだったのだが……わかった、(おぼ)えておこう」 2人はアンのいる軍幕テントに到着(とうちゃく)。 メディスンは中にいるアンへ一声(ひとこえ)へ掛け、テントへと入って行った。 そしてメディスンは、簡易(かんい)ベットで横になっているアンに向かってノピアが来たことを伝えようとすると――。 「いいザマだな、アン·テネシーグレッチ」 ノピアがメディスンを押しのけて、寝ているアンの前に立つ。 そして、彼は(こし)()びたピックアップブレードを(にぎ)り、そこからマグマのような()()(ひかり)(やいば)を彼女へと向けた。 「早く()きろ。それともこのまま殺されたいか?」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!