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3章
ノピアの姿を見たエヌエーは、全く状況が把握できないでいた。
何故ならばロミーから聞いていた話では、彼はアンとロミー、ニコを救うためにクロエと対峙していたと聞いていたからだ。
戸惑っているエヌエーの傍でブラッドが、その顔を歪めている。
それもそのはずだ。
反帝国組織のリーダーであり、彼ら父親のような存在――バイオは、元を正せばノピアがメディスンを唆したことによってその命を失ったのだ。
言うならば、バイオ·ナンバーにとってノピア·ラシックは親の仇。
いくら彼がこれからコンピュータークロエとの戦闘で戦力になるとはいえ、その心中は穏やかではいられないだろう。
エヌエーもブラッドも、とてもノピアを信用できていないように見える。
「まさか君から通信が入るとはな。正直驚いたぞ」
だが、メディスンは普段と変わりなくノピアへ声を掛ける。
ノピアの行動でバイオを死なせてしまったのはメディスンだ。
それでも、メディスンは彼を信用していた――いや信用せざるえないと言うべきか――。
ノピアはまたズレてもいないスカーフの位置を直しながら、フンッと鼻を鳴らして返した。
それを見てブラッドは苛立ち、エヌエーも表情を強張らせる。
「そんなことよりも、アン·テネシーグレッチはどこにいる?」
「なんだよ、お前もアン頼りか? こりゃ大層な助っ人だな」
ノピアの不躾な質問に対して、ブラッドが皮肉を返した。
だが、ノピアは彼を無視してメディスンのほうを向いていた。
それが、さらにブラッドを苛立たせた。
「アンは……いることはいるのだが……。通信でも話した通り、会っても無駄だと思う……」
「構わん。それを判断するのは私だ。奴に会わせろ」
吐き捨てるように言うノピアを連れてメディスンは、アンのいる軍幕テントへと向かった。
その後ろについて来ようとしたブラッドとエヌエーに、メディスンは来ないように言う。
ブラッドは、どうしてだ? と思わず大声を出した。
エヌエーも何故なのかと訊ねる。
「今のアンに愛やら友情は役に立たん。『ヴェニスの商人』じゃ世界は救えんからな。悪役が酷い目に遭う喜劇など現実ではあり得ない話だ」
「てめえ、何を意味のわかんねえことを言ってんだよッ!」
メディスンが答える前にノピアが返事をすると、その言葉に怒ったブラッドが掴み掛かろうとした。
ブラッドはノピアの言っている例え話は理解できていなかったが、それが侮辱に近い言い回しであることを感じたからだった。
そんなブラッドを無言で止めるメディスン。
そして、ブラッドとエヌエー2人へ自分の顔を向けた。
「もし親父なら……そしてシックス……あいつだったら……過去に拘らず、未来を良くしようとするはずだ」
その言葉を聞いたブラッドとエヌエーは、それ以上何も言うことができなかった。
そして、メディスンは、ノピアを連れてアンのいる場所へと歩いて行った。
バイオ·ナンバーの野営地内を進んでいくメディスンとノピア。
辺りを見渡しながらノピアは、こんな軍隊とも呼べない集団でよくやると思っていた。
「今、こんな素人の集まりでとか思っていただろう?」
まるでメディスンに心の中を覗かれたように思ったノピア。
それから、黙って歩いていた2人に会話が始まる。
「メディスン……前に君と会ったときとは別人のように感じる」
ノピアが呟くような声で言うと、メディスンは笑みを浮かべた。
その笑みは、まるで長年の友人にからかわれたようなものだった。
「それはお互い様だな。相手を挑発するような言い回しや威圧的な態度は変わっていないが、君も私が知っているノピア·ラシックではないように思うよ」
メディスンがそう返事をすると、ノピアは「そうかもな」と笑みを返した。
「あと、ブラッドの奴をあまりからかわんでくれ。エヌエーもそうだが、あいつらは純粋というか、単純なんだ」
「私としては冗談の1つでも言ったつもりだったのだが……わかった、覚えておこう」
2人はアンのいる軍幕テントに到着。
メディスンは中にいるアンへ一声へ掛け、テントへと入って行った。
そしてメディスンは、簡易ベットで横になっているアンに向かってノピアが来たことを伝えようとすると――。
「いいザマだな、アン·テネシーグレッチ」
ノピアがメディスンを押しのけて、寝ているアンの前に立つ。
そして、彼は腰に帯びたピックアップブレードを握り、そこからマグマのような真っ赤な光の刃を彼女へと向けた。
「早く起きろ。それともこのまま殺されたいか?」
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