27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
41章
ホワイトファルコン号はノピアによって空中へと放り出された。
アンの体には崩れていくストリング城にいたときよりも、さらに重力がのし掛かってきていた。
それでも、なんとか舵をとるアン。
「ノピア……偉そうなことを言っておいて死ぬなよ……」
ノピアによってなんとかストリング城から飛び出したアンは、彼が必ず生き残るように願った。
城内にはまだ、アンとノピアが乗ってきた航空機が残っているはずだ。
それに乗ればきっと彼も――。
アンはそう考えると、再びホワイトファルコン号のエンジンをかける。
だか、やはり飛行船が飛ぶことはなく、ただ落ちていく――地面へと落下していくだけだった。
「ダメなのか……? ホワイトファルコン……」
その身に地球の引力を感じながらアンは、舵を握りながら俯く。
せっかくクロエを倒すことができたのに――。
グレイ、ノピアのおかげで飛行船に乗り、ストリング城を脱出することができたのに――。
このまま地面に激突して死ぬのか、と。
「世界が平和になったって……生き残らないと意味がない……」
そして、何度も何度もエンジンをかけようとチャレンジしたが、やはり飛行船は動かない。
「くそっ!! みんなが救ってくれたのに、こんな終わり方なのかッ!!!」
アンは、これまでの戦いで死んでいった仲間のことを考えた。
皆、自分の命を犠牲にして助けてくれた。
それなのに、救われた命をここで失ってしまうのか――。
アンは、考えれば考えるほど、胸が締め付けられていた。
彼女は、ストリング帝国から逃亡し、それから離れ離れになったグレイを捜すために旅をしていた。
そこで出会った仲間たちは、皆自分のせいで死んだようなものだ。
両親から始まり、同じ部隊の仲間たち――。
マナ、キャス、シックス、クロム――。
ルーザー、ルドベキア、ラスグリーン、クリア――。
ロンヘア、ニコ、ルー、そしてグレイ、ノピアも――。
アンは以前に悩んでいた、自分は死神だということを思い出し、その罪の意識に苛まれてしまう。
うじうじと悩んでいる場合じゃないと頭ではわかっていても、心がそれを許してくれない。
落下していくホワイトファルコン号の船内で、頭をかかえて呻くアン。
しばらくして、彼女はポツリと呟く。
「だが……その死神もようやく死ぬ……」
アンは、舵に寄りかかりながら自嘲した。
自分みたいな人間はもっと早く死ぬべきだった。
いや、自分は皆のため――仲間たちのために死ぬべきだったのだと、涙を流しながら笑みを浮かべる。
「ローズ……ごめんな。姉さんはもう疲れたよ……」
飛行船内で気を失っている妹を見て、アンは流れる涙を拭った。
笑うのが辛いのか、申し訳なさいっぱいに歯を食いしばる。
「お前との約束は守れそうにない……本当にごめん……」
ロミーにそう言ったとき――。
突然、声が聞こえてきた。
「アン……諦めないで……」
まるで、冬の日に体を包み込む毛布のような優しく穏やかな声。
アンはこの声が、誰であるがすぐに気がつく。
「ロンヘア……か……」
アンは力なく返事をした。
死んだはずのロンヘアの声を聞いた彼女は、天国から彼が迎えに来てくれたのかと思っていた。
アンは安堵の表情を浮かべ、彼の声に耳を傾ける。
「アン……大丈夫、大丈夫だよ」
「ロンヘア……もういいんだ……。このまま死んで……私は……お前のもとへ……」
アンはロンヘアの声を聞いた影響か、情緒不安定だった心が落ち着いていくのを感じる。
そのときのアンの顔は、とても穏やかなものになっていた。
「これで一緒だな……」
無理矢理ではない心からの笑み。
アンはロンヘアにそう言った。
だか、彼は――。
「アン……君は生きてくれ」
彼がそう言ったと同時に、船内が突然無重力状態となった。
そして、アンとロミーの体は天井へと叩きつけられる。
アンは宙に浮いた状態から体を動かし、ロミーを掴まえるとその体を抱きしめた。
「こ、これは……一体……?」
それは、ホワイトファルコンが下から吹き上げてくる風によって、押し上げられていたからだった。
最初のコメントを投稿しよう!