41章

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41章

ホワイトファルコン号はノピアによって空中へと(ほう)り出された。 アンの体には(くず)れていくストリング城にいたときよりも、さらに重力がのし()かってきていた。 それでも、なんとか(かじ)をとるアン。 「ノピア……(えら)そうなことを言っておいて死ぬなよ……」 ノピアによってなんとかストリング城から飛び出したアンは、彼が必ず生き残るように(ねが)った。 城内にはまだ、アンとノピアが乗ってきた航空機(オスプレイ)が残っているはずだ。 それに乗ればきっと彼も――。 アンはそう考えると、(ふたた)びホワイトファルコン号のエンジンをかける。 だか、やはり飛行船(ひこうせん)が飛ぶことはなく、ただ落ちていく――地面へと落下(らっか)していくだけだった。 「ダメなのか……? ホワイトファルコン……」 その身に地球(ちきゅう)引力(いんりょく)を感じながらアンは、舵を(にぎ)りながら(うつ)く。 せっかくクロエを(たお)すことができたのに――。 グレイ、ノピアのおかげで飛行船に乗り、ストリング城を脱出(だっしゅつ)することができたのに――。 このまま地面に激突(げきとつ)して死ぬのか、と。 「世界が平和になったって……生き(のこ)らないと意味がない……」 そして、何度も何度もエンジンをかけようとチャレンジしたが、やはり飛行船は動かない。 「くそっ!! みんなが(すく)ってくれたのに、こんな終わり方なのかッ!!!」 アンは、これまでの戦いで死んでいった仲間のことを考えた。 皆、自分の(いのち)犠牲(ぎせい)にして助けてくれた。 それなのに、救われた命をここで(うし)ってしまうのか――。 アンは、考えれば考えるほど、(むね)()め付けられていた。 彼女は、ストリング帝国から逃亡(とうぼう)し、それから(はな)(ばな)れになったグレイを(さが)すために旅をしていた。 そこで出会った仲間たちは、皆自分のせいで死んだようなものだ。 両親から始まり、同じ部隊の仲間たち――。 マナ、キャス、シックス、クロム――。 ルーザー、ルドベキア、ラスグリーン、クリア――。 ロンヘア、ニコ、ルー、そしてグレイ、ノピアも――。 アンは以前に(なや)んでいた、自分は死神(しにがみ)だということを思い出し、その(つみ)意識(いしき)(さいな)まれてしまう。 うじうじと悩んでいる場合じゃないと頭ではわかっていても、心がそれを(ゆる)してくれない。 落下していくホワイトファルコン号の船内で、頭をかかえて呻くアン。 しばらくして、彼女はポツリと(つぶや)く。 「だが……その死神もようやく死ぬ……」 アンは、舵に寄りかかりながら自嘲(じちょう)した。 自分みたいな人間はもっと早く死ぬべきだった。 いや、自分は皆のため――仲間たちのために死ぬべきだったのだと、(なみだ)を流しながら笑みを()かべる。 「ローズ……ごめんな。姉さんはもう(つか)れたよ……」 飛行船内で気を失っている妹を見て、アンは流れる涙を(なぐ)った。 笑うのが(つら)いのか、(もう)(わけ)なさいっぱいに()を食いしばる。 「お前との約束は守れそうにない……本当にごめん……」 ロミーにそう言ったとき――。 突然、声が聞こえてきた。 「アン……(あきら)めないで……」 まるで、冬の日に体を(つつ)み込む毛布(もうふ)のような(やさ)しく(おだ)やかな声。 アンはこの声が、誰であるがすぐに気がつく。 「ロンヘア……か……」 アンは力なく返事をした。 死んだはずのロンヘアの声を聞いた彼女は、天国から彼が(むか)えに来てくれたのかと思っていた。 アンは安堵(あんど)表情(ひょうじょう)を浮かべ、彼の声に耳を(かたむ)ける。 「アン……大丈夫、大丈夫だよ」 「ロンヘア……もういいんだ……。このまま死んで……私は……お前のもとへ……」 アンはロンヘアの声を聞いた影響(えいきょう)か、情緒不安定(じょうちょふあんてい)だった心が落ち着いていくのを感じる。 そのときのアンの顔は、とても穏やかなものになっていた。 「これで一緒だな……」 無理矢理(むりやり)ではない心からの笑み。 アンはロンヘアにそう言った。 だか、彼は――。 「アン……君は生きてくれ」 彼がそう言ったと同時に、船内が突然無重力状態(むじゅうりょくじょうたい)となった。 そして、アンとロミーの体は天井(てんじょう)へと(たた)きつけられる。 アンは(ちゅう)に浮いた状態から体を動かし、ロミーを(つか)まえるとその体を()きしめた。 「こ、これは……一体……?」 それは、ホワイトファルコンが下から吹き上げてくる風によって、押し上げられていたからだった。
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