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4章
ピックアップブレードをアンへと向けたノピアの姿を見たニコは、慌てて彼に飛び掛かった。
だが、その豊かな白い毛を持った体を片手で掴まれ、簡単に放り投げられてしまう。
メディスンは放り投げられたニコを抱きかかえると、穏やかな声で宥めた。
ニコは、まさかメディスンがノピアをここへ連れてきて、アンを始末させようとしているのではないかと、彼の腕の中で大暴れしたが――。
「大丈夫だ、ニコ。じっとしていろ」
そう言ったメディスンに見つめられたニコは、何かを感じ取ったのか、抱きしめられたまま動かなくなった。
アンのほうへブレードを向けたままノピアは、側にあった彼女の荷物からピックアップブレードを見つける。
それを手に取り、寝ているアンへと放り投げた。
「立て、アン·テネシーグレッチ。剣を持って立ち上がれ」
静かながら力強い声。
だが、アンはピクリとも動く様子はない。
ノピアは、ブレードの真っ赤な光の刃を向けながら、再び言葉を続ける。
仲間がお前を庇って殺された――。
そのせいで戦意を失ったのか? と、まるで彼女を小馬鹿にするような言い方で訊ねるように言った。
「ふん。くだらん。勝敗は兵家の常だ。自分の不甲斐なさを気にするのなら、行動で挽回してみせろ。今のお前を見たら死んでいったあいつらも浮かばれん」
「……浮かばれないだとッ!?」
すると、今まで簡易ベットで横になっていたアンが、勢いよく立ち上がった。
彼女は、憤怒の形相でノピアを睨みつけている。
その顔はまるで鬼――いや、阿修羅のようだ。
「お前こそ、どうしてここにいる!? クロエから私たちを助けるためにストリング城の残ったと聞いたぞッ!!!」
アンの怒鳴り声を聞いたノピアは、小首を傾げ、鼻で笑った。
それを見たアンは、さらに顔を歪ませる。
「その命の恩人に随分な物言いだな」
「うるさいッ! 私は……あそこで死ぬべきだった……」
アンの怒りに満ちていた顔が、次第に悲しみを帯び始めていく。
「マナ、キャス、シックス、クロム、ル―、ルドベキア……みんな……死んだ……」
そして、ノピアを睨みつけたまま涙を流し始めた。
そんなアンの姿を見ていたニコは、メディスンに抱きかかえられながら沈痛な声で鳴いていた。
「私は死神なんだ……」
アンは泣きながらか細い声で言葉を続ける。
「父さんも母さんも……。リードもストラもレスもモズさんも……。ロンヘアも……ルーザーも……みんな、私と一緒にいたせいで死んだんだ……」
幼いときに両親を――。
マシーナリーウイルスの実験で部隊の仲間――。
ローランド研究所で出会った想い人を――。
そして、バッカス将軍が率いる1万兵との戦闘で道標だった人を――彼女は失った。
アンは、その場に両膝をついて俯むく。
「もう……嫌なんだ! 戦って……勝っても負けても……どうせまた大事な人が死ぬだけじゃないか!!」
「私はまだ生きているぞッ!!!」
俯いたアンが叫ぶと、ノピアは彼女の頭上から叫び返した。
今までも威圧的ではあったが、静かに話していた彼が突然大声を出したのだ。
それでニコはビクッと驚いていたが、メディスンは動じていなかった。
怒鳴られたアンは顔を上げて何か言い返そうとした。
だが、ノピアの言葉は止まらない。
「シープ·グレイも生きている。もちろんコンピュータークロエもな。死神を気取るなら全員殺してからにしろッ!!!」
「お前なんかに私の気持ちがわかるもんかッ!!! 大事な人がいないお前にッ!!!」
ノピアの言葉を聞いたアンは、彼の胸元を掴んだ。
ウザったそうな顔をしていたノピアが表情を冷静なものへと戻し、最初のときと同じように静かに言葉を発する。
「……私はイバとリンベースを殺された。お前にな」
睨みつけつけるのとは違う。
両目を真っ直ぐに見つめてくるノピアに、アンは何も言い返すことができなかった。
「2人が死んでから気がついた……いや、気がつかされたんだ。私にも大事な人がいたんだと……」
「じゃあ、今すぐ私を殺して仇を討てばいいだろう……」
アンが投げやりに返事をすると、ノピアは胸元を掴まれていた手を離して、彼女を右腕――マシーナリーウイルスによって変わってしまった機械の腕に自分の拳を当てた。
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