27人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
7章
クロエはモーリス率いるストリング軍を見ると、そのまま空へと飛び出した。
空に浮かぶストリング城から落下していくクロエ。
その体から穏やかに風が巻き起こる。
この力はクロエが生み出した意思のある合成種の1人ーー。
反帝国組織バイオ·ナンバーの兵士であるシックスの力だった。
クロエは、彼以上に風を操りながら、まるで鳥のように空を舞う。
地上にいたストリング兵たちが、その姿を確認していた。
あれは子供か?
いや、男なのか女なのか?
ストリング兵たちは、空で踊るように飛んでいるクロエの姿に見惚れてしまっていた。
クロム·グラッドスト―ンの体を奪ったクロエの今の姿は少年だ。
だが、元々中性的なクロムの容姿と、クロエの仕草や表情のせいか、まるで無邪気な天女のようだった。
「ああ……なんて心地いいの」
クロエは全身から風を放ちながら、ゆったりと下降して行く。
モーリスは、クロエに見惚れている全軍へ檄を飛ばした。
その号令と共に、航空機トレモロ·ビグズビ―と戦闘車両プレイテック――。
さらに、ストリング帝国の機械兵オートマタや、歩兵たちが一斉に、電磁波放出装置――インストガンを発射した。
ストリング軍の全軍による一斉射撃。
これには一溜まりもないだろうと、モーリスが強張った顔のままで笑みを浮かべていると――。
「ああ……あなたたちの感情が伝わってくるわ……。愛……愛なのね」
殆ど原型を留めていないクロエの姿が、そこにはあった。
だが、全身の肉片が飛び散った状態で、彼女は恍惚の表情を浮かべている。
その姿を見たストリング兵――。
自我のないはずの機械兵ですら、クロエに恐れ戦いていた。
そのクロエの半壊した体からブクブクと泡が立ち始めると、吹き飛んだはずの腕や足――。
さらに、破裂した顔の半分が再生していく。
この力は以前に、雪の大陸にあるガーベラドームで、アンたちが戦った意思を持つ合成種ストーンコールドの持っていたものだ。
シックスと同じく、ストーンコールドの核を喰らったクロエ。
その自己再生速度は、ストーンコールドよりも早い。
「ば、化け物めッ!!!」
モーリスが叫ぶと、再び全軍へ向けて指示を出した。
クロエが再生できなくなるまで撃ち続けろと、通信を使って伝えたが、突如としてストリング軍の立っている大地が激しく揺れ始める。
地震というにはあまりにも凄まじい振動。
もはや地上にいるストリング兵たちには狙いを定めること――いや、立っていることすら困難な状況に陥ってしまっていた。
それを見ていたクロエ。
完全再生した自分の体を弄びながら楽しそうに笑った。
「さあ、今度は私の番かしら?」
最初のコメントを投稿しよう!