8章

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8章

(はげ)しく()れる大地(だいち)()け始め、戦闘車両(せんとうしゃりょう)プレイテックや、ストリング兵たちがその()れ目に飲み込まれていく。 モーリスが乗るプレイテックは、その割れ目を()けながら次の指示(しじ)を出した。 ジェットパックを背負(せお)った機械兵(オートマタ)やストリング歩兵は上空(じょうくう)へ飛び、トレモロ·ビグズビーと共に空から攻撃(こうげき)を続けろと。 「まだ頑張(がんば)るのね。いいわ、来なさい。もう思い(のこ)すことがないように、あなたたちのすべてを私に見せて」 クロエがそう言った瞬間(しゅんかん)――。 (ふたた)びインストガンによる一斉射撃(いっせいしゃげき)が始まった。 「(ちり)の1つも(のこ)すなッ!! 奴を2度と再生(さいせい)できぬようにしてやれッ!!!」 その様子を地上から見ていたモーリスが、(さけ)ぶように声を出していた。 電磁波(でんじは)による轟音(ごうおん)閃光(せんこう)(ほとばし)り、クロエの体をを(つつ)む。 だが――。 「な、なんだとッ!?」 モーリスは驚愕(きょうがく)していた。 何故ならばクロエの(まわ)りには白い(ひかり)(かべ)(あらわ)れ、彼女の身を(まも)っていたからだ。 光の壁が電磁波を(はじ)き、次にクロエはその光を航空機(オスプレイ)トレモロ·ビグズビーへと飛ばした。 そして、目にも止まらぬ早さで(つらぬ)かれたトレモロ·ビグズビーは墜落(ついらく)していく。 この光――いや、波動(オーラ)(あやつ)る力は、英雄(えいゆう)ルーザーの(わざ)だった。 だが、元々(もともと)はクロエの持つ力でもある。 その生命(せいめい)波動(オーラ)を貫くことは、現在(げんざい)のストリング軍の火力(かりょく)ではとてもじゃないが無理であろう。 「まだまだ……これからよ」 風を全身から起こしているクロエの体から水流(すいりゅう)の音が聞こえ始め、その身を()き通った水が包んでいく。 全身に(まと)った透き通った水が、太陽の光を()びて青みを()びる。 その姿は大昔の物語に出てくる四大精霊(しだいせいれい)のうち、水を(つかさど)精霊(エレメンタル)――ウンディーネを彷彿(ほうふう)とさせた。 そして、クロエが手を(てん)(かざ)すと、(はる)上空(じょうくう)から水の(やいば)()り出す。 (あらし)のような突風(とっぷう)に乗り、鋭利(えいり)豪雨(ごうう)が、空に上がっていた機械兵(オートマタ)やストリング兵を死体(したい)へと変えていく。 その降り(そそ)ぐ水の刃に()えきれなくなったトレモロ·ビグズビーも、次々(つぎつぎ)に地面へと落ちていった。 水を操る力――これはストリング帝国の女将軍(しょうぐん)だったキャス·デューバーグの能力だ。 だが、キャスに刃の雨を降らすほどの力はなく、クロエは(あき)らかに彼女以上の力を持っていた。 「っく!? ストリング皇帝閣下(かっか)……(もう)(わけ)ございません。我々(われわれ)では……コンピュータ―クロエには勝てない……」 今さらな敗北(はいぼく)理解(りかい)したモーリスがそう言ったとき――。 彼の視界(しかい)一瞬(いっしゅん)にして真紅(しんく)()まった。 それは、まるで生き物のように躍動(やくどう)する火の壁。 (いのち)息吹(いぶき)を感じさせる(あざ)やかな赤だった。 広がった紅炎(こうえん)(おさ)まっていくと、上空には(ほのお)(まと)ったクロエの姿が見える。 「もうお(しま)いみたいねぇ。それじゃ、おやすみなさい」 クロエは体から(あふ)れる炎を手に集め、火球(かきゅう)へと変えた。 その火球は次第(しだい)に大きくなり、地上にいたストリング軍すべてを包んでしまうくらいに(ふく)らんでいく。 その炎を操る力は、マナ·ダルオレンジの能力だ。 これもキャスと同じく、クロエは完全にマナの力を凌駕(りょうが)していた。 その手に(あつ)められた炎は、まるで太陽のように巨大となった。 「こ、皇帝閣下ッ!!!」 モーリスが叫ぶと、クロエの手から太陽のような炎の(たま)が落とされ、地上にいたすべてのストリング軍は()()くされてしまった。 「ああ~ママったら、1人で全部やっちゃうんだもんなぁ」 その様子を、ストリング城から見ていたグラビティシャドーが、(あき)れた顔をしてため息をついていた。
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