A nostalgic girl wearing a red beret ~赤いベレー帽をかぶっていたあの頃の君へ

9/52
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/621ページ
知世が、緒方竹虎直伝の剣豪であることを知っていた機動隊員は刺す股を用意し、剣道の有段者である者たちを先頭に立てた。 母屋の前に近づいたとき、サッシが突然、飛んできた。 中から、木刀を持った紺のスーツ姿の知世が現れた。 木刀を上段に構えた知世に、 「制圧!制圧!」 と隊長が叫び、 「放水用意!」 とあわてて放水車がホースの用意をしたりしていた。 刺す股隊が動こうとしたとき、知世は木刀を振り下ろした。 機動隊がひるんで下がったとき、知世は振り下ろした木刀をコンクリートの床に突き刺した。 木刀は、コンクリートの床を突き破り、見事に、その三分の一ほどを埋めて、直立した。 茫然として見ていた機動隊は、しかし、すぐに、 「検挙!検挙!」 と声を荒がして、知世の身柄を拘束した。 二度目の逮捕であった。 砂町の自宅に戻っても、警察の監視は続いた。 くるすは自宅に帰り、夜、ダイニングでくつろぐ純雄に、さくらは声をかけた。 「はい、これ」 とさくらはボストンバッグと春野製パンの作業着を渡した。 「午前4時に、一便車両が出ます。あなたは、いちばん遠い大井町のヨーカドーへの車両に乗ってもらいます」 「しかし、それではお義母さんにご迷惑が」 純雄が御難を案じると、 「私たちが寝ている間に、あなたは抜け出した。そういうことです」 とさくらは計略を明かした。 「申し訳ありません」 「これもっていきなさい」 さくらは札束を出した。 「お気遣いありがとうございます」 純雄は頭を下げた。 「お父さん、気をつけて」 世理奈は、純雄に抱き着いた。
/621ページ

最初のコメントを投稿しよう!