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A girl meets a girl~少女は、少女に出会う
昭和62年9月20日。この夜、秋月世理奈は、代々木体育館前にいた。そこではおニャン子クラブの解散コンサートが行われており、そのチケットを入手できなかったファンたちが大勢、中から漏れてくる歌声に聴き入っていた。
午後8時過ぎ、コンサートが終わりに近づいたとき、親衛隊の一部が、「俺たちも入れろ」と突入を試みた。
それにファンたちが続き、ガードマンと押し合いになり、ついに入り口のガラスが割れた。世里奈もそれに続いたが、押し返されてしまった。このとき、傍らでひとりの少女が倒れた。
「大丈夫?」
世理奈は助け起こしたが、後ろから押されるので、そのまま体育館の敷地外へと押し出されてしまった。
「どこもケガしてない?」
世理奈が尋ねたが、そのとき初めて、この少女が自分と同じロゴの鉢巻をしていることに気づいた。
「あなた、まりなちゃんのファン?」
少女は頷いた。立ち上がった少女が、黒くて長いストレートヘアの整った顔立ちであることに驚いた。
が、その世理奈も祖母と母親ゆずりの美貌だった。
容姿が似通った二人は、とりあえず代々木公園まで下がった。
「結局、中には入れなかったね」
世理奈がいうと、
「でも、この前の回は見れたからいいわ」
と少女がこたえた。
コンサートが終わったらしく、会場周辺を見ていると、一台のバスが動き出した。
「あれ、おニャン子が乗っているのでは」
少女がいうなり駆け出した。世理奈も続いた。
二人だけでなく、大勢の少年達が駆け出したが、バスはすぐに代々木上原の交差点を新宿方向に曲がっていった。
バスを走って交番の前まで追いかけた二人は、そこで息を切らした。
「きっと新宿のホテルで打ち上げするのよ」
少女がいうと、
「とにかく会場へ戻ろうよ」
と世理奈は声をかけた。
体育館まで戻ると、多くのファンがなすすべもなくたむろしていた。
親衛隊が、「これから、おれたちはどうする」といってたり、解散後も芸能界に残るメンバーを応援する親衛隊が、さかんに勧誘したりしていた。
その中で異様に盛り上がっていた集団がいた。親衛隊のひとりが、「今日はおれたちの終戦記念日だ」というと、そこにいたファンたちが歓声をあげた。
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