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 ぴちょん。水が滴る音がする。おかしい。蛇口はしっかり閉めた筈なのに。  蒸し暑い。どの部屋もそう。シャワーを使いまくっている仕事のせい、裸でも寒くないように温度設定しているせい。  窓一つない狭い部屋。間接照明の光は部屋の隅々には届かない。水音はもうしない。あれは暗い雨。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。  客の視線でわれに返った。シャワーが終わった、わたしの裸の体に突き刺さるような男の視線。客は無言でベッドで待っている、  シャワールームとベッドルームの間に壁がない奇妙な部屋。ここは鶴見駅前のファッションヘルス。わたしは、ここではヘルス嬢のモカだ。  わたしは水滴を拭き取った体にバスタオルを巻いて、ベッドの客の隣に腰かけた。客は裸で股間にだけタオルを巻いている。恥ずかしいの? そこはさっき洗った。客も、そこを洗うわたしの裸をじっと観察していた。わたし胸そんなにない。がっかりしてないかな。  客の腿に自分のそれをぴったりくっつけて、客の手を握った。客はもう一方の腕をわたしの肩に回して、抱き寄せた。店の接客講習ではプレイ前に会話を盛り上げなさいと教わったけど、そのままプレイに入っちゃえ。 「横になって下さい」  客は素直に従った。わたしはバスタオルをとった。胸に注がれる視線がわかった。 「失礼します」  客のタオルをとると、バネ仕掛けのようにペニスが飛び出してきた。固くなっている。それに触れる。優しく扱ってと店長は言った。血液が集まる暖かさ。手からはみ出している。  わたしは口に含んだ。舌を使う。客の体がビクンと反応して、頭上から、うっと思わず洩れた声がした。男の人が悶えるのは好きだ。 「シックスナインしたい」客の声が降ってきた。わたしはペニスをいったん離すと、慎重に体勢を変えて客の顔にまたがった。すぐに性器が舐められる。むちゃくちゃな舌使い、犬みたい。ちっとも感じないが、あ、とか言った方がいいだろうか。再びペニスを舐めだすと、客はわたしの口の中で果てた。  客は欲望が満たされて余裕ができたのか、プレイ前とはうって変わって饒舌になった。 「モカちゃん、よかったよ。今度指名する」 「ありがとうございます」 「正直言うと、君に挿れたくなった」 「そういうプレイはウチではやっていないんで、他に行ってください」  笑顔ではっきり言ってやる。わたしは処女だ。それを守ることがそんなに大事な訳じゃないが、さすがに客で捨てたくはない。  手を振って客を見送る。笑って小首をかしげる仕草で、かわいく見えるだろうか。
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